朝食はホテル選びの楽しみの一つ。地域の食文化やホテルならではのこだわりが詰まった朝ごはんは、旅の満足度を大きく左右します。今回は、国の重要文化財・東京駅丸の内駅舎にある東京ステーションホテルへ。彩り豊かな朝ごはんをいただきます。

赤レンガが美しい東京駅丸の内駅舎にある東京ステーションホテル。朝食の舞台となるのは、かつて屋根裏だった最上階のゲストラウンジ「アトリウム」だ。天井高9mの開放的な空間には、朝のやわらかな光が降り注ぎ、特別な一日の始まりを予感させてくれる。
朝食ブッフェのアイテムは、100種類以上。2012年のリニューアルオープン以来、「旅館にも負けない満足度の高い朝食を」との想いで、一品一品に心を配っている。
和食は、お惣菜や金目鯛の煮付け、自ら魚介を選んで作る海鮮重などバラエティー豊か。江戸前で採れた海苔や茎わかめ、昆布の佃煮、銚子港で水揚げされた魚を昔ながらの製法で炊き上げたカツオの佃煮など、老舗から選び抜いた食材を使用。味噌汁には丁寧に引いた出汁と伊勢海老の頭を使うなど、何げない一品にも妥協はない。東京ならではの食文化を感じられる鶏すき鍋や雪消飯(ゆきげめし)といった江戸料理も人気だ。
洋食は、エッグベネディクトやオムレツなど、シェフが目の前で作るオリジナルの卵料理が評判だ。無添加・無塩せきのベーコンやソーセージ、契約農家から取り寄せる有機野菜、オーガニックの調味料など、素材へのこだわりも徹底。目にも鮮やかな料理が並ぶブッフェ台を眺めているだけで、自然と心が弾んでくる。


たくさんの種類を楽しんでいただけるよう小皿料理も提供。季節やその日の食材に合わせて、メニューは日々進化している。
「非日常の空間でゆったりと朝食を味わい、心からリフレッシュしていただける時間をお届けできたらと思っています」
そう話すのは、総料理長の石原雅弘さん。食材選びでは、おいしさを追求するだけでなく、生産者に寄り添う姿勢も大切にしている。コロナ禍では、道の駅の客足が途絶え、南房総の農家が野菜の販路を失い、東京駅と館山を結ぶ高速バスも利用客が激減した。そこで、ホテル、農家、バス会社の三者が手を取り合い、高速バスの荷室を活用して採れたての野菜を運ぶ取り組みが始まったという。
「この取り組みは今も続いています。地域と助け合いながら、一番おいしい状態の野菜をご提供する。それが生産者の応援につながり、結果として、お客様にも最高の朝食を味わっていただける。そんな良い循環を大切にしていきたいと思っています」
東京ステーションホテルに宿泊するゲストの8割近くが、ホテルで朝食を楽しむという。だからこそ、その期待に応えられるよう、新たなメニューに挑戦し続けたいとほほ笑む石原シェフ。いつ訪れても新しいおいしさがあり、またこの場所へ帰ってきたくなる。そんな特別な時間が、旅の思い出をいっそう豊かなものにしてくれる。


取材・文/編集部
(2026.08 Vol. 757)