黄綬褒章 業務精励(ホテル業務)
風間 秀夫さん
(株)西武・プリンスホテルズワールドワイド
ザ・プリンス パークタワー東京
管理部門 管理 管理担当
(元・(株)プリンスホテル高輪・品川 営業副総支配人)

──黄綬褒章のご受章、おめでとうございます。今のお気持ちを聞かせてください。
ありがとうございます。まさか私がこのような栄誉をいただけるとは思っておらず、大変驚いています。これまで支えてくださった上司や先輩、同僚、そして部下の皆さんのおかげで、このような機会をいただけたのだと思います。今はただ、感謝の気持ちでいっぱいです。
──入社以来、ずっと営業一筋でいらっしゃるそうですね。
プリンスホテルスクールを卒業後、高輪プリンスホテル(現・グランドプリンスホテル高輪)の宴会サービスに配属されたのが、私のホテル人生の始まりです。実は、当初はロビーサービスに憧れていたため、希望とは異なる部署でのスタートに戸惑いもありました。それでも、VIPの会食など貴重な経験を重ねるうちに、宴会サービスの奥深さややりがいを実感するようになりました。
──特に印象に残っているお仕事やお客様との出会いを教えてください。
これまでたくさんの出会いがありましたので、一つに絞るのは難しいですが、印象深いのは、2004年に担当した総理大臣経験者の方の合同葬です。通常は日本武道館で執り行われることが多いのですが、この時は都内のホテルで実施されることになり、競合他社との受注競争に挑みました。短期間で提案書や見積書を準備し、関係各所へ何度も足を運んで綿密な交渉を重ねました。その結果、受注が決まった瞬間の達成感は、今でも鮮明に覚えています。
──ホテルの営業というお仕事を、どのような役割だと捉えていらっしゃいますか。
宴会の営業は、お客様とホテルの間に立つ「架け橋」のようなもの。宴会当日までには多くの打ち合わせや手配が必要で、営業が間に入ることで円滑に進めることができます。現場の調理やサービス担当者としっかり連携しながら、お客様にご満足いただける環境をつくることが営業の使命だと思います。
──お仕事で心がけているのは、どのようなことでしょうか。
これは営業だけにかぎらないかもしれませんが、私たちの仕事には正解がありません。だからこそ、まずはお客様を深く知ることが何より大切だと思っています。担当させていただく企業のことを理解し、好きになること。その上で人脈を広げ、信頼関係を丁寧に築いていくことが重要です。お客様から信頼していただくことで次の仕事へとつながり、さらに大きなやりがいを感じられる──それが、この仕事の醍醐味だと思っています。
──後進の方を指導する場面では、どのようなことに留意されてきましたか。
営業担当として、情報収集や人脈づくりを大切にしてきた経験から、部下には「お客様の信頼を決して裏切らないこと」を一貫して伝えてきました。営業の現場では、マニュアルだけでは対応しきれない場面が多くあります。だからこそ、その場その場で状況を読み取る判断力や、相手の意図を正しく汲み取るコミュニケーション力を身につけてもらうことを重視してきました。信頼を守り抜く姿勢こそが、成長につながると考えています。
──これからのホテル業界や、若手ホテリエへの期待をお聞かせください。
今はインバウンドの拡大などもあり、一人ひとりの負担が増していると思います。AIやロボットといった効率化の仕組みも必要ですが、ホテルの真価は「人の力」。人にしかできない心のこもった接客がホテルの本質だと考えています。若い世代には、人にしかできないこの仕事の魅力を信じ、サービスの質を磨いてほしいと願っています。
ホテルは、お客様にとって「安全で安心できる場所」であるだけでなく、「幸せな時間を生み出す空間」でなくてはなりません。一般家庭でも高品質な設備が揃う時代ですが、ホテルが提供すべきは、それ以上の「体験」ではないかと考えます。これからも、人の力でお客様をもてなす心を大切にしていきたいと思っています。
取材・文/編集部 撮影/島崎信一
(2025 10/11/12 Vol. 753)