
沖縄を起点に「ラーケーション」の波を全国へ
沖縄県では2025年9月より、県内すべての県立学校でラーケーション制度「県立学校家族休暇制度」を試験的に実施。その成果を踏まえ、2026年4月からの本格導入を決めた。
背景には、観光需要の平準化や地域経済活性化といった一般的な効果への期待に加え、サービス業従事者の割合が高いという沖縄の地域特性もある。子どもが平日に休めることで、家族で過ごす時間の確保や、ワークライフバランスの充実につなげる狙いがある。県内では座間味村が一足早く2024年4月にラーケーション制度「ざまやすみ」を始めているが、今後は県教育委員会からの要請に基づき、各市町村でも個別に導入を検討していくことになるという。
こうした動きに先立ち、沖縄県におけるラーケーション制度の導入・普及に向けて先頭に立って取り組んできたのが、県内で6つのホテルを運営するかりゆしグループである。株式会社かりゆし代表取締役会長で日本ホテル協会理事(沖縄県ホテル協会会長)の平良(たいら)朝敬氏が旗振り役となり、他のホテルとも連携して知事にラーケーション制度導入を要請するなどの活動を行ってきた。同社顧問の嘉手苅(かでかる)孝夫氏(沖縄県ホテル協会事務総長)は次のように話す。
「周知のように観光業は沖縄県のリーディング産業です。さまざまな旅行スタイルを提案し、国内外からのお客様増大に努めることが、私たちの使命。ラーケーションという新しいツーリズムの形をぜひ定着させたいと考えました」
観光を通じて学びを深め、家族の絆を強める休暇のあり方は、多彩な観光資源に恵まれ、修学旅行のメッカともなっている沖縄でこそ親和性が高い。沖縄を起点にラーケーションの利用機会を各地に波及させれば、相互交流の活性化で全国的な観光振興にも寄与できる。
「実際、沖縄県が県立学校に通う生徒・児童の保護者を対象に今年3月に行ったアンケート調査の結果を見ると、ラーケーション制度を利用した人の約7割が『大変満足』と答えています。その理由で最も多いのが『家族の時間が確保できる』でした。旅行業への潜在的効果は大きいと思います」(嘉手苅氏)
ラーケーションとSDGsの緊密な関係
かりゆしグループにとってラーケーションは、マーケット拡大のためだけの方策ではない。SDGs実現への貢献という大きなビジョンの一角を占める取り組みでもあるという。
「私たちは、2030年のあるべき姿として、『沖縄の豊かな自然と伝統を守りながら、地域の未来を担う人財を育て、持続可能な観光と地域づくりを実現すること』をビジョンとして定めています。その達成には、原動力となる人財を支えるウェルビーイングの推進、また環境保全や環境教育への取り組みが欠かせません。ラーケーションもこれらに密接に関係するテーマです」
SDGs推進を担う玉那覇(たまなは)靖氏(専務取締役兼事業管理本部長)はそう話す。「ウェルビーイングの推進」においては、ラーケーションを利用する従業員に助成金を支給するなどして支援すること。そのための就業規則見直しを含むウェルビーイング推進方針を策定し、すべての従業員が幸福感のある毎日を過ごせるよう働く環境を整える。同時に、「環境保全・環境教育」では、自社が保有するかりゆしビーチサンゴパークを活用し、主に小学生向けのサンゴ教室を開催。ラーケーションに適したアクティビティプログラムを拡充する。この2方向からのアプローチだ。

現状、ラーケーション助成金制度は、18歳未満の子・孫を有するなど一定の条件を満たす従業員を対象に、1家族につき年1回、上限額を設けて支給する方向で検討中。今年度中の実施を予定する。
一方、サンゴ教室は2008年から続けてきた取り組みで、琉球列島の海を彩るサンゴの生態を理解し守ることを目的に、サンゴの苗の植え付け協力や、グラスボートに乗っての観察体験などを織り込んだツアーを運営している。プログラム開発を担当した林裕子さん(現在は人材開発部)はこう話す。
「最近では赤土の流出や、海水温の上昇などが原因でサンゴが白化する現象が進んでいます。苗の入手も難しくなったため、昨年からは少し視点を変え、『赤土流出防止』をテーマとするコースにアレンジしました。赤土が海に流れ出すのを防ぐ役目をするベチバーという植物を使ったブレスレットやミサンガを作りながら、海の生態系を守ることの大切さを学んでいただきます」
ブレスレットやミサンガは商品としても販売している。地元のベチバー農家の収入源につなげるなど、持続可能性を得るための工夫である。こうした活動を含む、経済・社会・環境の各方面にわたる広範な取り組みが評価され、株式会社かりゆしは今年2月、沖縄県による「おきなわSDGs認証制度」において最高位の「プラチナパートナー」に認証された。


かりゆしビーチサンゴパークで「サンゴ教室」を開催。海の生態系について学ぶほか、サンゴ白化の原因となる赤土流出について理解を深める。


赤土流出の防止に役立つベチバーを使ったミサンガづくりなども体験。
平日需要の拡大、休み方改革の推進と一体の振興策を
同社の川端昇氏(沖縄県ホテル協会事務局長)によれば、サンゴ教室は、環境配慮型の社員旅行を検討する企業にも好評を博しているという。「ラーケーションに限らず、地域との共生に広く目を向けた活動を展開していきたい」と川端氏。その方針の下で今、近隣の森林を散策するガイド付きトレッキングツアーの企画も進んでいる。
また、同社グループでは「休日分散化」「平日の観光需要喚起」の観点から、ラーケーション推進と歩調を合わせ、次の三つの取り組みを進めている。
「一つはMICEとの連携。ウェディングなどの商談会を平日に開き、そこに参加される業者さんにご家族同伴でお越しいただき、泊まっていただく。二つ目に、土産品などのメーカーさんに出店いただく平日開催のミニ物産展。お客様と直接お話しできる機会になりますし、ここにもお子さん連れで来られる方が少なくありません。もう一つが、ユニバーサル対応の環境整備と一体に、障がいのある方が作った作品をホテルに来て販売していただくこと。これはまだ構想段階ですが、特別支援学校の生徒さんによる平日販売会の実施を計画しているところです」(玉那覇氏)
かりゆしグループにおけるラーケーションの取り組みは、ホテルという空間を最大限に活用し、SDGsの実現にも、地域間の相互交流促進にも、そして平日需要の拡大にもつなげようという幅広い活動となっている。
だが、そのためには、「全国規模での働き方/休み方改革をもっと進めてほしい。大人が平日に休める環境づくりが不可欠です」。嘉手苅氏がそう言うように、前出の沖縄県のアンケート調査では、ラーケーション制度をより良いものにするために最も必要なこととして、「保護者が休みを取りやすい職場環境の構築」を挙げる声が最も多かった。
取材・文/編集部
(2026.08 Vol. 757)
かりゆしグループ(公式サイト)
https://www.kariyushi.co.jp