旅して学ぶ「ラーケーション」

Webプロモーションの展開で
ラーケーションのニーズに応える

森トラスト・ホテルズ&リゾーツ

森の中でジップラインを楽しむ2人

特設ページ「旅するラーケーション」を開設

森トラスト・ホテルズ&リゾーツでは、ラーケーション制度を利用して平日に旅行を計画するファミリー層向けに、「旅するラーケーション」と銘打った旅行プランを提供している。

ファミリー層向けの制度であるラーケーションには、家族と過ごす時間が増えることで保護者のワークライフバランスが向上する、旅行先での体験を通じて子どもが探究的な学びを得られる、などといったメリットがあるとされている。

同社がWebサイト「旅するラーケーション」を企画し立ち上げたのは2023年のこと。きっかけは、愛知県が全国に先駆けて、ラーケーションを推し進めているニュースに触れたことだった。

広報&PRグループの相澤直亮さん(セールス&マーケティング部専門部長代理)は、旅行に対する新しい動機づけとして、ラーケーションに可能性を感じたと振り返る。

「もとより、観光という言葉には、『旅先で出合った風景、文化、歴史などを見聞し体験する』という意味があります。ラーケーションを構成する、学習(Learning)と休暇(Vacation)という二つの要素は本来、相性が良い組み合わせだと考えます」

2023年当時、同社が全国展開する各ホテルでは、ラーケーション制度を導入している地域から訪れる利用者の割合は決して多くなかったが、将来、より多くの自治体に制度が広がることへの期待も込めつつ、デジタルマーケティングの一環として、いち早くWebサイトの開設に踏み切った。

9つのエリアで多彩な旅行プランを提案

現在公開中のWebサイトでは、関東から近畿までの9つのエリアを舞台に、各地域で実施されている既存の体験プログラムを、ラーケーションという視点で整理し直し、「学び」と「体験」が得られる旅のプランとして提案。自然や生き物との触れ合い、地域に根差したものづくり体験など、多彩なプログラムを用意している。

例えば、和歌山県の南紀白浜マリオットホテルでは、古の巡礼路、熊野古道を散策しながらごみ拾いをして環境保全に取り組むとともに、熊野本宮大社で、通常は入ることができない御垣内(みかきうち)での参拝と、神前に供えた神酒とお膳をいただく直会(なおらい)が体験できる。厳かな空間で、日本の伝統的な儀式・作法を学べると参加者から好評を得ている。

熊野古道の杉林の中を続く石畳と石段。
熊野本宮大社の神門。しめ縄や幕、のぼりが掲げられている様子。

熊野古道を散策し、熊野本宮大社を訪ねる(南紀白浜マリオットホテル)

また、富士マリオットホテル山中湖では、富士山の裾野に広がる青木ヶ原樹海を散策するとともに、通常、観光客は入ることのできない氷の洞窟を探検するプライベートツアーを提案している。原始の森の神秘的な光景を目にし、あふれ出すような自然の生命力を実感できるとあって、こちらも大いに人気を博している。

青木ヶ原樹海を散策し、ガイドの説明を聞く参加者たち。
青木ヶ原樹海で「生命の森」を体感(富士マリオットホテル山中湖)

家族旅行との親和性の高さに着目

今回、同社がラーケーションを大々的に打ち出した背景には、グループが運営する法人会員制事業「ラフォーレ倶楽部」の存在も大きな要因としてある。

1976年に設立したラフォーレ倶楽部は、グループ傘下のホテルおよびリゾート施設を会員企業の従業員がお得に活用できるサービスで、2026年3月末時点で432法人が契約、利用対象者は700万人超を数える。

企業の福利厚生として利用される機会の多いラフォーレ倶楽部では、家族旅行での利用者が多くいるため、ラーケーションとの親和性が高いのではないかと想定した。実際に、ラフォーレ倶楽部の会員の中には、愛知県をはじめ、ラーケーションを導入済みの地域に会社や工場を構える法人も少なくない。そうした顧客向けの営業ツールの一つとして、ラーケーションが役立つ場面もあるのだという。

「旅するラーケーション」で取り上げた9つのホテルの他に、同社では全国に20を超えるホテルおよびリゾート施設を運営している。いずれも、その土地ならではの食の提供や、そこでしか体験できないプログラムの提供を行っている。現在は、ラフォーレ倶楽部の対象施設のみを取り上げているが、もしも今後、ラーケーションの機運が一層高まってくれば、別施設を案内するページを別途立ち上げることも視野に入れている。

マーケティンググループの稲田朝一さん(セールス&マーケティング部部長代理)はこう語る。

「旅行者に向けて各地域の魅力を発信することは、宿泊事業者の役割の一つです。特にお子さんにとって、地域の自然、歴史、文化にじかに触れる体験は、他には代えがたい価値あるものとなるはずです。学校や塾では得られない学びにつながるという、ラーケーションの魅力を伝えることで、新しい旅行需要の掘り起こしにつながると期待しています」

ドームいっぱいに天の川と星空を映し出したプラネタリウム
プラネタリウムでの学習体験も人気(琵琶湖マリオットホテル)

認知度アップと制度普及が今後のカギ

2023年の愛知県に続いて、大分県別府市、茨城県、栃木県日光市、熊本県、山口県など、複数の自治体がラーケーションの導入に踏み切っている。とはいえ、同社が当初期待していたほどの広がりと盛り上がりはまだ見えてこない。関連ワードの検索数もさほど多くなく、Webサイトへのアクセス数も十分とは言えない状況だ。

それでも、今後、東京都や大阪府をはじめ大都市圏の、よりマーケットの大きい自治体がラーケーション制度を導入したときに、そのニーズに十分に応えられる受け皿を用意しておきたいと相澤さんは語る。

「現状では、どの自治体でラーケーションが導入されているのか十分に知られていない上、導入済みの自治体の中でも、住民への周知に課題があると言えます。ですが、いざ広まるときには、瞬く間に広がっていくものでしょう。制度がより普及した暁には、利用者のニーズに沿った新たなプログラムの開発などにも取り組んでいきたいです」

働き方・休み方改革の促進の観点からも、また学校教育が目指す、探究的な学びという点から考えても、ラーケーションは価値ある取り組みだと言える。だからこそ、宿泊事業者としていち早くラーケーションを打ち出したプロモーションを展開する同社では、国が先頭に立って、より力強く制度の普及を進めてほしいと期待をにじませている。

「社会全体で認知が広がれば、参画する自治体の数も増加すると予想されます。そのためには、国や官公庁が制度の目的と仕組み、また先行事例なども含めて、広くPRしていただけるとうれしいですね」(稲田さん)

省庁等を通じた広報活動に加えて、国や自治体が制度利用者にクーポンを発行するといった、個別の振興策を講じることも考えられる。いまだ発展途上の段階にあるラーケーションだが、旅行に新しい価値を付与することで、人々を観光へと誘うという趣旨には十分な説得力がある。インセンティブを設けることで、取り組みはより加速するだろう。

「家族旅行は人生の中で節目となるイベントで、長く思い出に残る貴重な経験です。ラーケーションという枠組みを通して、利用者の皆さまに、より価値ある体験を提供することができたなら、宿泊事業者としてこの上ない喜びです」(相澤さん)

この制度が今後どのように発展していくのか、業界から注目が集まっている。

取材・文/柴野 聰
(2026.08 Vol. 757)

森トラスト・ホテルズ&リゾーツ(公式サイト)
https://www.mt-hr.com