学習(Learning)と休暇(Vacation)を組み合わせて「ラーケーション」。子どもが保護者とともに校外学習などを行う際、平日に学校を休んでも欠席扱いにならない制度である。2023年度に愛知県と大分県別府市が初めて実施して以来、導入する自治体が全国規模で増えている。地域と観光客、そしてホテルをはじめとする宿泊事業者にとっての利点とは。一般社団法人日本旅行業協会(JATA)国内旅行推進部、野浪健一部長の話を交えてレポートする。

親子が一緒に過ごす「家族の休日」
近年、「ラーケーション」が注目されている。ラーケーションとは、ラーニング(Learning)とバケーション(Vacation)を組み合わせた造語である。子どもが平日に学校を休んで家族と旅行に出かけたり、さまざまな体験活動を行ったりすることを、「学校外での学び」と位置づけ、欠席扱いとしない制度だ。
ラーケーションは、愛知県が進める「休み方改革」の一環として始まった。製造業やサービス業が盛んな愛知県では、土日・祝日に仕事をする保護者も多く、「学校の休みと家族の休みが合わない」という課題があった。そこで県は2022年に、「あいち県民の日条例」を制定し、「県民の日学校ホリデー」の創設を決定した。これは、毎年11月27日の「あいち県民の日」の前後1週間を「あいちウィーク」とし、11月27日固定ではなく、学校や市町村が指定する平日の1日を学校休業日とするもの。これにより、金曜日や月曜日と週末を合わせた連休として、平日を含む宿泊旅行が可能になる。翌23年9月にはラーケーション制度も導入。「ラーケーションの日」として、保護者が学校へ申請することで、トータルで年間3日まで、休みが取得できるようにした。
愛知県と並び、全国で最も早くラーケーションを取り入れたのが、大分県別府市だ。観光業に従事する人が多い地域柄、やはり家族と一緒の休みが取りづらいという課題を、長年、抱えていたのである。愛知県と同じく2023年9月から「たびスタ休暇」の名称で始まり、こちらは年間5日まで、ラーケーションを認めている。
その後、ラーケーションを導入する自治体は、県や市町村単位で増えている。青森県青森市(あおもり「夢体験休暇」)、栃木県日光市(ちょこっとスタバケ日光)、神奈川県川崎市(かわさきホリデー・アンド・スタディ)、山口県(家族でやま学の日)、福岡県北九州市(KitaQ(休)まなぼっちゃ)、熊本県(くまなびの日)、沖縄県座間味村(ざまやすみ)など、地域の特色を生かしたユニークな名称も多く、ラーケーションを地域ぐるみで盛り上げようという工夫がうかがえる。 取得できる日数は地域の教育委員会の裁量に委ねられており、年間3~5日程度ということが多い。
一般社団法人日本旅行業協会(JATA)の野浪健一国内旅行推進部長に聞いた。
「徳島県や静岡県では、県が導入を決めたところ、市町村がどんどん参加しています。徳島県では2025年度からこの制度を取り入れました。専用のポータルサイトを通じて、県内のラーケーション・スポットや、利用者(保護者や生徒)の声を紹介して普及を図っています」
ラーケーション制度を導入している主な自治体
| 自治体 | 制度名 | 開始時期 | 上限日数 |
|---|---|---|---|
| 青森県青森市 | あおもり「夢体験休暇」 | 25年11月 | 3日 |
| 新潟県柏崎市 | ラーケーション | 26年4月 | 3日 |
| 栃木県日光市 | ちょこっとスタバケ日光 | 24年4月 | 3日 |
| 茨城県 | ラーケーション | 24年4月 | 5日 |
| 神奈川県川崎市 | ホリデー・アンド・スタディ | 25年4月 | 2日 |
| 静岡県 | ラーケーション | 25年9月 | 3日 |
| 静岡県磐田市 | いえたん磐田 | 24年9月 | 3日 |
| 愛知県 | ラーケーションの日 | 23年9月 | 3日 |
| 三重県志摩市 | しま・家族と過ごす学びの休日 | 25年9月 | 5日 |
| 奈良県王寺町 | ラーケーション | 25年4月 | 5日 |
| 滋賀県長浜市 | ラーケーションの日 | 24年9月 | 3日 |
| 山口県 | 家族でやま学の日 | 24年6月 | 3日 |
| 徳島県 | ラーケーションの日 | 25年4月 | 3日 |
| 福岡県北九州市 | KitaQ(休)まなぼっちゃ | 25年8月 | 3日 |
| 大分県別府市 | たびスタ休暇 | 23年9月 | 5日 |
| 熊本県 | くまなびの日 | 24年4月 | 3日 |
| 沖縄県 | 県立学校家族休暇制度 | 25年9月 | 3日 |
| 沖縄県座間味村 | ざまやすみ | 24年4月 | 3日 |
2026年7月現在の一例/開始時期は試行を含む
平日に旅行を楽しむ日本人を増やそう
ラーケーションが注目される背景を、4つの視点から見てみよう。
1つ目は、家族の休日という視点。愛知県や別府市の例がそうだが、業種・職種によって、なかなかカレンダーどおりに休めない人たちは、ラーケーションを活用することで、家族が一緒に休暇を楽しめる機会が増える。ホテルに勤める人たちも例外ではない。
2つ目は教育の観点。「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」を、教室から実社会へと拡張する上で、ラーケーションは格好の機会となりうる。博物館や美術館を訪れる、歴史・自然・産業を見聞きするなど、教室では得られない実体験を通して学べることも、ラーケーションの教育的な価値だ。
3つ目は旅行者目線。休日はどこへ行っても混んでいる。予約は取りにくいし、宿泊料金や飲食代金も高くなりがちだ。平日を組み込むことで、ゆっくり低予算で旅行が楽しめる。
そして最後の4つ目は、旅行需要の平準化という視点。これこそ、旅行業・観光業がラーケーションに期待するゆえんだ。
「旅行業界ではこの数年、国内旅行に大きな構造的変化が起きています」と、野浪部長。国内旅行の消費額は、毎年、過去最高を更新しているのに、実際に旅行をする日本人は減っているというのだ。
観光庁の「旅行・観光消費動向調査」をもとにJATAが分析した2024年のデータによると、「年4回以上、宿泊を含む旅行をした人は11.3%。このわずか11.3%の人たちが、宿泊旅行回数全体の55.5%を占めていた。逆に、1年間まったく宿泊旅行をしなかった人は、50.5%に上った」(野浪氏)という。つまり国内旅行市場は、一部のヘビーユーザーが支える構造へと変化しているのだ。
「ですから、混雑や宿泊費の高騰を理由に、休日は旅行を控えている人や、仕事の都合で休日に休めない人たちにとって、旅行しやすい環境をつくることが大事なのです。その結果、連休や週末に偏った旅行需要を平日に分散させる。これが国内旅行を伸ばすための有力な『打ち手』であり、その一つの仕組みがラーケーションです」(野浪氏)
需要平準化は、関連業界の人材確保や職場環境にも関係してくる。ホテル業を含む旅行業・観光業では人手不足が大きな課題だが、平日でも安定してお客様が来ないと、必要な従業員を常態的に維持することは難しい。安定した需要は、働く人の賃金や待遇の向上にもつながるだろう。

需要の平準化が観光産業の未来を拓く
「県民の日学校ホリデー」「ラーケーションの日」を実施している愛知県では、近隣県の旅館やホテルにアンケートを行っている。その結果、愛知県から1泊2日くらいで行ける観光地の宿泊施設では、「あいちウィーク」期間中に宿泊客が増えていることがわかった。
「旅行・観光産業は、すでに自動車産業の17兆円に次ぐ市場規模といわれています。需要を平準化すれば、こんなふうにまだまだ成長する余地はあるのです」(野浪氏)
第5次観光立国推進基本計画(2026年3月27日閣議決定)では、国の基本計画にラーケーションの促進が明記された。国内旅行需要の平準化を進めるための、具体策の一つとして位置づけられている。
JATAでも昨年(2025年)、ANTA(全国旅行業協会)、日本観光振興協会と連名で、40都道府県(すでに導入済みの県などを除く)の知事に、ラーケーション導入の要望書を提出。ラーケーションや、県民の日などを活用した学校の平日休みの検討を仰ぐとともに、有給休暇などで従業員が平日休みを取りやすくなるよう、地元企業の協力も要請している。
JATAの「平日に泊まろう!」キャンペーンは、今年2026年で3年目を迎える。平日に泊まりがけの旅行をすると、抽選で次回の旅行に使えるクーポン券が当たるというものだ。

「キャンペーンをやったからといって、すぐに平日の需要が伸びるわけでも、過度な期待をしているわけでもありません。需要を平準化していこうと呼びかけ続け、各地で少しずつでも取り組みが広がっていくことが、このキャンペーンの意味なのです」(野浪氏)
あなたの地域では、ラーケーションはもう始まっているだろうか。平日の旅行需要が広がった先には、オーバーツーリズムや観光地への一極集中に左右されない、持続可能な国内旅行市場が待っている。
取材・文/田中洋子
(2026.08 Vol. 757)