掛江浩一郎
日本ホテル協会専務理事
観光振興のために使うことを前提に、宿泊を伴う観光客から自治体が徴収する「宿泊税」。全国的に導入・値上げの傾向が強まっているのが実情ですが、果たしてその妥当性はどの程度あるのでしょうか。導入・値上げへと向かう背景と憂慮すべき問題点、望ましい方向性について、ホテル業界の立場から意見を述べます。

宿泊税の問題点──導入に慎重であるべき理由
昨今、全国の自治体で宿泊税の導入や値上げの動きが広がっている。2026年4月には20自治体が新たに課税を始め、課税自治体は全国で39となった。当協会の調べでは、さらに約50の自治体において新たな導入や値上げの動きがある。京都やニセコのように観光客の急増に対応するためにやむを得ないと思われるところもあるが、多くの自治体ではそのような問題が生じていないし、そもそも観光地といえない地域すらある。
では、なぜ宿泊税が広がっているのか? 税を負担する宿泊者の多くは地元住民ではなく域外からの旅行者であるため、反発を受けにくく、また、手間のかかる徴税事務をホテルに押し付け、自治体自らが行う必要がないため、「取りやすく、お手軽な税制」として、税収増を狙って安易に導入しようとしているのではないかと疑われる。
観光対策にコストがかかるとしても、観光は地域全体に多大な経済効果をもたらす。特に宿泊観光客が増えれば、ホテルを含む観光関連産業の売り上げや雇用が拡大し、それに応じて地方税収も伸びる。よって観光客の増加にかかる費用は、原則として観光客によって増加する一般財源で手当てすべきである。実際、大多数の自治体には宿泊税はなく、観光対策予算は一般財源から捻出している。
仮に、一般財源が不足し、観光について受益者負担を求めざるを得ないとしても、地域への来訪者のうち宿泊者のみにコストを負担させ、日帰り客に負担を求めないのは不公平である。宿泊税よりも、宮島やベネチアに見られる入島税の方がはるかに合理的である。宿泊税は「取りやすいところから取る」性格の強い税であり、導入には特に慎重であるべきである。
宿泊税の検討に当たって配慮すべき事項
以上の基本認識を踏まえ、宿泊税の導入を検討する自治体に対しては、少なくとも次の点に十分配慮するよう求めている。
1)宿泊税の安易な導入や値上げを控えること
単に税収を増やしたいという安易な発想は論外であり、宿泊税の導入・値上げは、真に必要な場合に限るべきである。そして、宿泊者や宿泊事業者に説明を尽くし、十分な理解を得ることが必要である。説明に当たっては、少なくとも、当該地域の観光の現状から必要な対策、そのためにかかる経費、一般財源で不足する予算額について、具体的に明らかにすべきである。
2)定額制を基本とし、税額は最低限とすること
宿泊税は、観光客によって生じる地域に発生するコスト(例えば、交通混雑、ゴミ処理、外国語案内など)を観光客に負担させるものであるから、原因者負担・応益負担の考え方に基づく税制である。安いホテルに泊まる観光客も高いホテルに泊まる観光客も等しく交通を利用し、ゴミを出し、観光案内を必要とする。よって、宿泊税を導入するのであれば、定額制を基本とし、宿泊者に等しく負担を求めるべきである。
宿泊料金に応じた定率制という応能負担の考え方もあるが、地元への負荷に対して負担を求めるという宿泊税の趣旨にそぐわず、「取りやすいところから取る」という性格を強めることになってしまう。さらに、定率制では、旅行パッケージ商品において、宿泊税の額から内訳の宿泊料金が明らかになってしまうというビジネス上の問題も生ずる。
なお、定額制であれ定率制であれ、税額を必要最低限に抑えるべきは当然である。
3)使途の適正化のため、宿泊税対象事業を公表し、宿泊事業者の意見を聴くこと
使途については、真に観光振興に資するものに使われているか確認できるよう、毎年の予算決算において、宿泊税を財源とする個別事業を公表すべきである。また、宿泊者に負担を求める以上、宿泊施設の設備の支援等、宿泊者に裨益する事業を優先すべきである。さらに、これらを手続き的に担保するため、毎年の予算編成に当たって宿泊税の使途につき、宿泊事業者の意見を聴く手続きを設けるべきである。
4)自治体に代わって徴税事務を行う宿泊施設に十分な経費を払うこと
宿泊税は、宿泊事業者が自治体に代わって手間のかかる徴税事務を担うことになる。人件費の高騰、カード払いの場合の手数料支出等を考慮した十分な経費を支払うべきである。また、導入・値上げの際のシステム改修費用は自治体が負担すべきである。
なお、宿泊料金をOTA(オンライン旅行会社)で事前決済する場合、一般に、OTAは消費税を一緒に徴収するが、宿泊税は徴収しない。このため、宿泊業者は、宿泊税だけ別に徴収せざるを得ないという問題もあり、解決が望まれる。
東京都における宿泊税値上げの問題点
以上、一般論を述べたが、次に、東京都の宿泊税について取り上げたい。東京都の現行の宿泊税は、宿泊料金1人1泊1万円以上100円、1万5000円以上200円の定額制であるが、2026年3月に宿泊税条例を改正し、2026年度より宿泊料金の3%の定率制(1万3000円未満は免除)とする予定である。宿泊料3万円の場合は200円から4.5倍の900円に、宿泊料5万円の場合は7.5倍の1500円へと大幅な値上げとなる。具体的な問題点は次の通りである。
問題点① 値上げの理由
東京都は、観光産業費に占める宿泊税収の割合が2割程度に下がったことを値上げの理由としている。しかし、観光産業費の一定割合を宿泊税収で賄わなければならないというルールはない。実際、東京都の隣県である神奈川県、埼玉県、千葉県を含め、多くの自治体には宿泊税はなく、一般財源のみで観光産業費を捻出している。
東京都において、現行の宿泊税と一般財源で観光産業費を賄うことができるのであれば、宿泊税を値上げする必要はなく、5年連続で税収増の東京都においてこれができないとは考えにくい。こうした点について納得できる説明がない。
問題点② 3%の定率制
一般論で述べた通り、定額制から定率制への変更自体問題であるが、さらに税率を3%とすることにも疑問がある。他都市と比較した結果と説明されているが、日本の宿泊税の多数は数百円の定額制である。また、定率制を採用している倶知安町(北海道)は2%(2026年4月から3%に値上げしたが、道の宿泊税分を上乗せしたため)、沖縄県も2%(上限2000円)を計画しており、これらの自治体よりはるかに財政力のある東京都がなぜ3%もの高い税率を課す必要があるのか理解に苦しむ。本来は、必要な税収額から税率を算出すべきであるが、そもそも必要な税収額の積み上げすら示されていない。
問題点③ 1万3000円の免税点
東京都は、免税点を1万円から1万3000円に引き上げることとしているが、宿泊者間の公平な負担の観点から、そもそも免税点を設けるべきではない。免税点を設けているのは宿泊税を課税する39自治体のうち8自治体に過ぎず、しかも、免税点の多くは5000円程度である。東京都の免税点は、現行の1万円でも突出して高いのに、1万3000円に引き上げれば不公平が拡大する。東京都は、修学旅行への配慮を免税点の理由とするが、そうであれば、修学旅行を免税とするか、別途補助金を交付すればよい。
問題点④ 使途
東京都は、見直しに際し、これまで公表していなかった宿泊税を財源とする個別事業を公表し、今後、東京都観光産業振興実行プランに基づく事業に限定するとしている。しかし、実行プランは77ページと膨大で、ゼロエミッションモビリティの導入、水素エネルギーの活用、博物館の運営、伝統工芸支援など、本来、環境・文化・産業振興予算で手当てすべき事業も含み、実質的な歯止めとなっていない。使途の適正を担保するために、毎年度の予算編成に当たって宿泊事業者の意見を聴く機会を制度化するべきである。
問題点⑤ 徴税事務の経費負担
東京都に代わって宿泊税を徴収する宿泊事業者への交付金は2.5%であるが、カード払い手数料や、3%もの上乗せ負担を外国人等に説明するための手間を考慮すると、事実上の赤字となる。交付金は少なくとも3.5%以上への引き上げが必要である。
また、東京都は、制度改正に伴うシステム改修費の補助を中小企業に限って行う方針と聞くが、東京都の都合により必要となるシステム改修であるのだから、大企業を含めて東京都が改修費を負担すべきである。
観光は、日本経済を支え、地域活性化に資する数少ない成長産業であり、ホテルはそれを支える基幹インフラである。短期的な税収増を目的として宿泊客に過大な負担を課せば、角を矯めて牛を殺すことになりかねない。自治体関係者には、宿泊税についてより慎重な検討を望みたい。
(2026.06 Vol. 756)
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