黄綬褒章 業務精励(ホテル業務)
藤原 浩二さん
(株)倉敷国際ホテル
本館支配人

──黄綬褒章受章、おめでとうございます。今のお気持ちをお聞かせください。
ありがとうございます。入社して45年、主に料飲サービスの現場に携わってきました。このような栄誉ある賞をいただけたのは、長年ホテルを支えてくださった地元のお客様や、これまで一緒に働いてきた仲間たちのおかげです。本当に感謝の言葉しかありません。
──高校卒業後、倉敷国際ホテルに入社されました。もともとホテル業界に興味がおありだったのでしょうか。
いえ、私が生まれ育った岡山県笠岡市はのどかな田舎で、当時はホテルという存在自体が身近ではありませんでした。私にとってホテルは、単に「宿泊をする場所」というイメージしかなく、宴会や婚礼、レストランで料理やサービスを提供する場だとは思っていなかったんです。高校卒業を控えた頃、学校の先生から「先輩が勤めているから行ってみないか」と倉敷国際ホテルを勧められ、右も左も分からないままこの世界に飛び込みました。
──入社後、料飲サービスを提供する部署に配属されました。どのようなお仕事からスタートしたのでしょうか。
当時は「朝食」「宴会」「レストラン」の三つに分かれた三班体制で、毎日担当が変わっていました。朝食対応の日もあれば、宴会やレストランサービスの日もあり、勤務時間も日によって異なります。現在と比べると、体力的にはかなりハードでした。
先輩方の厳しさは、今でもよく覚えています。当時のレストランでは、メニューやオーダーはフランス語で通していたのですが、一字一句でも違えば厨房から「そんな料理はない」と言われ、作ってもらえないことも。料理に合わせたお皿を事前に用意するのも私たちの役目でしたが、出し忘れれば当然叱られますし、非常に緊張感のある職場でした。
ただ、今思えばそうした厳しさの中で、サービスの基本や所作、お客様への向き合い方を一つ一つ叩き込んでいただいたのだと思います。あの頃の経験が、今の自分の土台になっていると実感しています。
──これまでのキャリアの中で、特に印象に残っているお仕事について教えてください。
2016年のG7倉敷教育大臣会合、そして2023年のG7倉敷労働雇用大臣会合は、今でも強く印象に残っています。歓迎レセプションでは、倉敷市から「岡山県産の食材を使ってほしい」とご要望いただき、県内の農場や牧場、漁港、酒蔵など、生産者のもとへ何度も足を運びました。食材は季節によって状態や収穫量が変わりますから、実際に現地へ行かなければ分からないことも多いんです。振り返れば、この食材集めが最も苦労した部分だったかもしれません。
また、料理だけでなく、お皿や会場の装飾にも倉敷らしさを取り入れることを意識しました。地元の伝統工芸品や名産品を随所に用い、訪れてくださった皆様に、岡山・倉敷の魅力を感じていただける空間づくりを心がけました。
無事にすべてを終えたときは、安堵感と達成感でいっぱいでしたね。後日、倉敷市長からお褒めの言葉をいただき、スタッフ一同、それまでの苦労が報われた思いでした。
──接客において、日頃から大切にしていることは何でしょうか。
私は「お客様の期待を超える価値を提供すること」がサービスの本質だと考えています。ただご要望に応えるだけではなく、「想像以上だった」「感動した」と思っていただくことが、本当の意味でのお客様の満足につながります。そのために大切なのは、お客様が言葉にされない「潜在的な期待」を読み取ることではないでしょうか。
例えば、レストランで紅茶を提供した際、お客様がレモンの皮や種を取って飲まれていたとします。その様子をスタッフが見逃さず、次回そのお客様がご来店された際には、あらかじめ皮と種を除いたレモンをお出しする。また、左利きのお客様であれば、お声がけされる前にカトラリーを左利き用に整えておく。そうした顧客ニーズを日々収集・分析し、スタッフ全員で共有して先回りすることが重要だと考えています。
──ホテルで働く醍醐味についてお聞かせください。
お客様の人生における大切な節目の時間に立ち会えることが、ホテルで働く何よりの醍醐味だと感じています。また、お客様がホテルの設備や料理だけでなく、スタッフ自身のファンとなってくださることもあります。「藤原さんに会いたいから」とご指名でご予約をくださるお客様もいらっしゃいます。そうして築かれたご縁が、「また来ます」という言葉につながったとき、この仕事ならではの大きなやりがいと誇りを感じます。
──現在は本館支配人として、ホテル全体を俯瞰する役割を担われています。どのようなことに力を入れていらっしゃいますか。
サービスのさらなる強化を図りたいと考えています。ホテルという仕事は、宿泊、料飲、宴会、調理など、すべての部署が連携して初めて成り立ちます。「これは自分の仕事ではない」と線を引くのではなく、全員でお客様を迎える意識を持つことが大事です。そのために、私自身が率先して動き、現場をつないでいきたいと思っています。
──これからホテル業界や料飲サービスを目指す若い世代へ、激励のメッセージをお願いします。
私が一番大切にしている言葉に「不易流行(ふえきりゅうこう)」があります。先人たちが築き上げてきた伝統をしっかりと受け継ぎながら、時代に合わせて新しいことに果敢に挑戦していく精神です。ホテルの原点は、やはり“心からのおもてなし”にあります。新しくこの世界に飛び込んでくる皆さんには、ぜひお客様に愛される喜びを知っていただき、独自の新しい引き出しを増やしながら、これからのホテル文化を一緒につくっていってほしいと期待しています。
取材・文/編集部 撮影/島崎信一
(2026.06 Vol. 756)