黄綬褒章 業務精励(ホテル業務)
塚脇 邦浩さん
※「邦」は異体字
(株)リーガロイヤルホテル広島
総支配人室〈施設〉(嘱託)
(元・総支配人室〈施設〉課長)

──黄綬褒章ご受章、おめでとうございます。どのようなお気持ちで受け止めていらっしゃいますか。
まさか自分が、このような栄誉にあずかれるとは夢にも思っておらず、とても驚きました。そして、私自身の喜びはもちろんですが、高齢の母に喜んでもらえたことが何よりも誇らしく、感慨もひとしおでした。ホテルというのは、サービス、料理、施設それぞれの役割によって成り立つ場所です。その一翼を担う施設課に勤務して47年、「広島の迎賓館」とも称されるこのホテルを守る役目を遂げることができました。縁の下の力持ちといえばおこがましくもありますが、そうした目立たない仕事を認めてくださったことに、深く感謝しております。
──前身の新広島ホテル(後の広島グランドホテル)に入社されたのは1979年。ホテルを就職先に選ばれたのはなぜですか。
工業高校の機械科を卒業して、ごく自然に、機械設備管理に携わることができるホテルの仕事に惹かれました。あの当時から、このホテルの賑わいは大したもので、これからホテルという産業が発展していく未来を予感させるものがありました。若い私にさえも、そう感じさせる勢いがあったのですね。ここで働きたいと思いました。
──晴れてその一員となって、実際のお仕事はいかがでしたか。
技術課に配属され、ボイラーや冷凍機、空調設備、防災機器といった設備の運転・維持管理を担当しました。華やかに見える表舞台の仕事とは異なり、お客様の目に触れることのないものばかりですが、どれもホテル運営にとって欠かすことのできない重要な役割です。そういうことを肌身で感じる日々でした。何しろ24時間365日、稼働を止めることはできません。盆暮れも大型連休も関係なく、交替制で夜勤もあります。それまでの生活とは打って変わった毎日に、戸惑いながらも懸命に没頭していたように思います。
──そうした中で40年以上にわたり、無事故で設備管理を全うされました。お仕事に向き合う上で大切にされてきたモットーはありますか。
当社の企業理念に基づく行動指針に、「RIHGA ROYAL Standards」というものがあります。その最初に記されているのが「安全を第一に考えます」です。機械というものは正直で、正確を期して管理をすれば、故障せず、正常に運転を続けることができる。入社以来、この考えをずっと心に留めて仕事をしてきました。初心を忘れることなく、常に慎重に。本当に安全だろうか、もう一度確認してみよう。そんなふうにリスクに備えた行動を心がけること。私自身もそうですし、職場のみんなにも徹底してもらってきました。
──やはりチームワークが大切ですね。自分一人の意識だけでは限界があると。
そうですね。朝と夕、勤務交替時に行う引き継ぎが特に重要です。自分は「リンゴ」を示したつもりが、相手には「梨」と伝わっていたら、大変なミスや事故の元になります。似ているものや紛らわしいことは曖昧にせず、紙に書いたものを渡して口頭でも確認するなど、間違いなく伝わるよう工夫することが基本。こういう意識が大切なのは、施設課の職員に限ったことではありません。転んだり、やけどをしたり、器具でけがをしたり。どの現場にもそういうリスクがありますから、スタッフ全員の安全意識が欠かせないのです。
──館内の省エネ推進にも尽力され、国の省エネ優良事業者ベンチマークで7年連続のSクラス評価取得に貢献されました。
節電などの省エネと、それによる動力光熱費などのコスト削減。これは、施設課が会社の業績に寄与できることの最たるものといえます。厨房やトイレでの節水、照明のLED化、各種省エネ機器への切り替えなど、いろいろなことをやりました。一番重要なのは、やはり意識の持ちようですね。ただ「お願いします」と言うだけでは駄目で、使った水や電気、ガスの量を現場ごとに数値で可視化して示し、「おかげさまでこれだけ減りました」「もう少し減らしましょうか」などと具体的に伝えなければ響きません。そして、現場にも足を運んで、アルバイトの方も含めて直接お話をすることです。
──他にやりがいのあったこと、達成感を得られたご経験はありますか。
達成感といえば、省エネもそうですけれど、施設課長時代の2011年頃から携わった改装工事には思い出深いものがありました。現在のリーガロイヤルホテル広島が開業して十数年が過ぎ、客室、宴会場、レストラン、パブリックスペースといった館内施設の全般が改装の時期を迎えていました。ホテルはやはり、お客様に非日常の時間と空間を楽しんでいただく場所ですから、色あせていてはいけません。改装計画の立案に始まり、デザイン、施工、費用管理、工事中の安全管理に至るまで、関係各所と相談したり交渉したりと奔走して、3年がかりで無事に終えられたときの喜びは忘れられません。
──これからのホテルを担う若い世代に向けてメッセージをお願いします。
モノを売る店舗を利用されるお客様の場合、店員のサービスや店内の環境に不満があったとしても、お目当ての商品が手に入ればそれで納得できるかもしれません。でも、ホテルはそういうわけにはいきません。設備もサービスもお料理も、館内のあらゆるものに高得点が得られなければ、ご満足には至らない。その厳しさこそが、ここで働く魅力だと思います。また、それぞれの部門で道を極め、エキスパートになることで、別の部門のエキスパートたちと響き合い、ホテルという一つの世界を築くことができる。それもまた楽しい。だから私も、ここまで続けることができました。
観光立国推進の流れに乗り、ホテル業がこれからいっそう成長し、輝いていくことは間違いありません。私が若い時分に期待を抱いた以上の未来を、ぜひ感じ取っていただきたいと思います。
取材・文/編集部 撮影/島崎信一
(2026.06 Vol. 756)