ホテリエの現場から

地域の宝をホテルの価値へ
地域連携が生む新たな体験

びわ湖大津プリンスホテル

庭びわ湖畔の都市景観を空撮した写真。湖岸沿いに遊歩道と桟橋が伸び、手前には湖畔に建つ円筒形の高層ホテル、背後には市街地と山並みが広がっている。

地域の資源を宿泊価値につなげる

JR京都駅から2駅・9分というアクセスの良さ、びわ湖の南のほとりという抜群の立地が魅力のびわ湖大津プリンスホテル。全室レイクビューのリゾートホテルとして名高く、特に夏は多くの家族連れでにぎわう。同ホテルが大切にしているのは、「地域の宝」を生かしながら、「地域とともに価値をつくる」という姿勢だ。

その考え方を象徴する取り組みの一つが、滋賀県立琵琶湖博物館とのコラボルームだ。「家族向けの『遊んで学ぶ』体験の提供」をコンセプトに、びわ湖近接という強みを生かして、夏休みの自由研究にもつながる滞在プランとして企画された。客室には、博物館から借用したびわ湖の伝統的な和船「丸子船」の模型・ナゴヤダルマガエルの模型・書籍などを展示し、館内販売グッズの設置や、VR(バーチャルリアリティ)ゴーグルによる没入型体験「湖中・船上探検」、ノベルティ(小型ノート)の配布など、学びと体験を融合させた工夫が滞在プランの随所に盛り込まれた。

自治体や公共施設と民間企業のコラボレーションは難航するケースも少なくないが、その点はスムーズに進行したという。「親会社である西武ホールディングスと滋賀県は包括的連携協定を結んでおり、過去には博物館のイベントに当ホテルのベーカリーが出店するなど、長年にわたって信頼関係を構築してきたことも円滑に進んだ要因だと考えています」。そう語るのは、セールス&マーケティング部の青山政実さんだ。

お客様からは、「客室での滞在そのものが学びの場になった」「VRは大人も夢中になった」「ベッド近くに置かれたびわ湖の魚の写真や名称などのパネルを見て、親子のコミュニケーションが深まった」などの声が寄せられたという。一方で、満室化という点では課題も残った。「多くのお客様に喜んでいただけたのですが、今後は周知をさらに強化し、ホテルを通して地域の魅力をより多くの方に届けていきたいと考えています」(セールス&マーケティング部、菊池百季乃さん)

ホテル前の桟橋から博物館方面への観光船(週末に2~3便運航)も好評だった。今後は、プールやレストランなどホテル内の施設と組み合わせた企画に加え、地域と館内施設を横断した連携などさらなる深化も視野に入れている。

びわ湖に面した窓のある客室。和モダンの内装で、ツインベッドのヘッドボードには海や魚をモチーフにしたイラストと解説パネルが設えられている。室内には木製家具と畳スペースがあり、子ども向けの積み木や展示スタンドも配置された体験型の客室。
客室のデスク上に並べられた、地域の自然や海の生き物をテーマにした図鑑などの冊子。魚のイラストが描かれた表紙の、大きさが違う冊子が置かれ、マグカップも添えられている。びわ湖について学べる滞在用アイテム。

びわ湖に生息する魚を紹介するパネルやぬいぐるみ、図鑑などが設置されたコラボルーム。びわ湖の魅力に没入できる空間として人気を集めた。

産学連携でクリスマスのおもてなし

びわ湖大津プリンスホテルが手を携える地域連携の相手は、観光資源にとどまらない。冬の恒例企画として定着しているのが、滋賀短期大学の学生と連携し、ロビーにお菓子の家を飾るというクリスマスを彩るおもてなしだ。この取り組みは、産学連携を通して学生に日々の成果を発表する場を提供したいという思いからスタートし、昨年で13年目を迎えた。

「毎年テーマを考えていただき、デザインから制作まで全て学生さんにお願いしています。実物を見る機会の少ない『ヘキセンハウス(お菓子の家)』は大人気で、写真を撮られるお客様も多く、インスタグラムをはじめSNSに投稿される方も年々増えています」(青山さん)

ロビーには、制作された学生たちを紹介するパネルも設置。完成した作品と合わせて、学生たちが考えたテーマや物語のストーリーをゲストに伝えている。「協力してくださった学生さんからは『制作が楽しい』『学びを多くの人に見てもらえる場があって、うれしい』といった声が届いています。今後もヘキセンハウスの継続に加え、新しい展示手法にも挑戦していき、学生の皆さまが日々の成果を発揮できる場をさらに増やしていきたいと思っています」(菊池さん)

大学とのコラボレーションには、「地域の次世代を育てる」という重要な視点がある。加えて、地元学生との連携は、将来的な人材確保にもつながる取り組みだ。学生にとっては、ホテル業界の魅力や現場について知ることで進路の選択肢が広がり、ホテルとしては、職場の雰囲気を直接伝えられる機会となる。こうした双方向の関係構築は、地域に根差したホテルにとって見逃せない戦術の一つと言えるだろう。

滋賀短期大学のパン・スイーツ研究サークル学生によるヘキセンハウス展示と紹介パネル。制作テーマや参加学生の顔写真を掲示し、学生が主体的に活躍できる場を創出していることを伝える展示。
滋賀短期大学のパン・スイーツ研究サークルの学生が制作したヘキセンハウスの展示。色とりどりの菓子の家やツリー、ミニチュアで構成された街並みをホテルロビーに展示し、学生の創作活動と発表の場を提供している様子。

滋賀短期大学のパン・スイーツ研究サークルの学生たちが手がけたヘキセンハウス。学生たちが活躍できる場を創出している。

食を通じて地域の魅力を伝える

食の分野でも、びわ湖大津プリンスホテルは地域との連携を重ねてきた。滋賀県が主催するご当地料理「びわ湖魚グルメ」への参画だ。これは、びわ湖の環境保全を目的に県が主導する取り組みで、県内の50を超える飲食店がびわ湖の魚と県産野菜を組み合わせた新作メニューを披露し、各店舗で販売する。この企画に、びわ湖大津プリンスホテルも発足時から参画している。

「遠方からいらっしゃるお客様も多いので、ぜひ地元ならではの味を、ホテルを通して知っていただきたいと思っています。大津エリアの魅力ある食文化を発信してお客様に体験していただくことも、私たちの大切な役割だと考えています」と青山さん。今後も地元生産者との連携を深め、食を軸にした地域連携を進めていきたいと話す。

びわ湖の魚を取り入れた和食会席と鍋料理。刺身や天ぷら、鍋など地元食材を活かした献立。
びわ湖魚グルメを取り入れたブランチメニュー。サンドイッチやデザート、ドリンクが並ぶ軽食セット。
びわ湖を望むラウンジで提供されるカクテル。湖をイメージした青色のドリンクを含むオリジナルカクテル。
びわ湖の魚介を使ったディナーコース。前菜、温菜、主菜が並ぶ多彩なコース構成。

「びわ湖魚グルメ」メニューは多彩。日本料理や中国料理のディナーコースをはじめ、ブランチやカクテルまで、地元食材の魅力を存分に味わうことができる。

びわ湖大津プリンスホテルが地域連携で何より重視しているのは、双方向のコミュニケーションと、長期的な関係性の構築、そして相互支援である。
「やはり大切なのは、日頃からのコミュニケーションです。私たちから積極的に働きかける一方で、地域の皆様からご相談や協力のご依頼をいただいた際には、できる限りお応えしたいと考えています。引き続き地域の皆さまの協力を仰ぎながら、観光を盛り上げていきたいと思います」(青山さん)

世界的な観光都市・京都に近いという立地条件に甘えることなく、地域とともに価値を生み出し、その魅力を発信するびわ湖大津プリンスホテル。滋賀県を訪れる観光客はもちろん、地元の人々にも愛され、支持されるホテルとして、今後の取り組みに注目したい。

取材・文/ひだい ますみ
(2026.02 Vol.754)

びわ湖大津プリンスホテル(公式サイト)
https://www.princehotels.co.jp/otsu/