
看護師がケアを担当。ホテル滞在に安心を
国土交通省観光庁は近年、年齢や障害のあるなしなどにかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行「ユニバーサルツーリズム」の普及、定着を掲げ、観光施設のバリアフリー化などの施策を進めている。
そのような中、東京・千代田区のホテルニューオータニでは2025年6月、「すべての人に安心なホテル滞在を」とのキャッチフレーズとともに、「ナーシングケアプレミアム」と名づけたユニバーサルツーリズム新事業を開始した。高齢や障害などでケアを必要とするゲストのために、看護師がホテルステイのサポートや外出の付き添いを行うサービスだ。
「以前から、ご家族での旅行や結婚式・披露宴のときに、高齢の方や障害のある方が一緒に過ごせない、楽しめないといった声をしばしばお聞きしていました。高齢化が進むなか、複数世代で利用する際にも皆さんで楽しんでいただける空間づくりが求められていると感じていたのです」。同ホテル広報課長の片岡慎一郎さんはそう語る。
介護士やヘルパーにサポートを頼めるオプションサービスは以前から設定していたが、より安心してホテル滞在を楽しんでもらうために、もう一歩進んだサービスを、との考えから、ナーシングケアの専門企業と連携して導入したのが「ナーシングケアプレミアム」だ。
「導入から半年あまり、すでに多数のご利用・お問い合わせをいただいています。もっともニーズが高いのは結婚式ですね。式や披露宴に参加したいけれど、ずっと家族と一緒に行動するのは体力的に難しい……といった場合に、数時間だけ看護師に付き添ってもらって家族と別行動で過ごす。ホテルから挙式の会場までの付き添いなどを頼まれるケースもあります」
また、夫婦での旅行中、どちらか一方に体調や身体面の不安がある場合、数時間の別行動に合わせて、必要なケアや付き添いを依頼するパターンも。医療ケアが必要な方や寝たきりの方への対応ももちろん可能だ。
「必要に応じて事前に打ち合わせの機会を設け、必要なケアやサポートを細かく確認する場合もあります。当日、直接サポートにあたるのは看護師のみですが、私たちホテルスタッフも、控え室をご用意したり移動のご案内をしたりと、柔軟に対応することで、より安心してご滞在いただけるよう心がけています」


結婚式や披露宴などの特別な時間を、必要なサポートとともに安心して過ごすことができる。
部屋も食もユニバーサル化を
冒頭で述べたように、近年は国の施策ともなっている「ユニバーサルツーリズム」だが、ホテルニューオータニの「誰でも気軽に参加できる旅」への取り組みは、最近になって急に始まったものではないと片岡さんは言う。
「当ホテルの創業時からのコンセプトは『家族団欒から国際会議まで』。『幅広いお客様に使っていただけるホテル』として、お子様からご高齢の方まであらゆる方に満足いただけるホテルという姿勢は今もなお変わりませんし、それを目指してサービスを進化させてきました。それが結果として、ユニバーサルツーリズムという新しい概念につながったということだと思います」
例えば最近では、新しく客室を増やすときには、段差がなく車椅子でも利用しやすい部屋を基本とするなど、客室のユニバーサルルーム化を推進。パブリックスペースのトイレなども、おむつ替えシートやオストメイト設備を備えたユニバーサルトイレへと順次改装を重ねてきた。


車椅子でも快適に過ごせるユニバーサルルーム。幅85センチのスロープを備え、手すりも設置。ハンガーは低い位置にあるので、座ったまま無理なく使える。
また、インバウンド客の急増に伴い、「食」の面でもユニバーサル化に力を入れている。「ホテル内のレストランでは、以前から食物アレルギーやベジタリアン対応の食事は提供していましたが、宗教上の制約や生活スタイルの多様性により、そこにあてはまらないお客様も増えています。皆さんで楽しんでいただける場にしていくため、40階にあるタワーレストランのビュッフェダイニングには、『プラントベースフード』と呼ばれる植物由来の食材を使った料理を取り入れました。ノンアルコールのドリンクを希望されるお客様も多くなっているので、各レストランで工夫を凝らしていますね」。片岡さんはそう説明する。

従業員の意識向上で、取り組みの深化を
「あらゆる人に満足してもらえるホテル」を目指した取り組みは、それだけにとどまらない。「いくらハード面を整えても、従業員の意識が高まらないと意味がない」との考えから、社員研修に、障害のある方への対応に関する内容を取り入れるなど、「ユニバーサル」に対する意識の向上に努めている。その成果として、観光庁が掲げる「観光施設における心のバリアフリー認定制度」の認定も受けた。
「最近では、フロントや客室スタッフなど従業員3名が、ユニバーサルマナー検定を受講しました。今後、その内容を研修の中にも組み込んでいくことを検討しています」と片岡さん。注目すべきは、検定の受講がトップダウンの指示ではなく、現場の従業員たち自身の主導によって進められたという点だ。
「数年前に、『お子様連れのお客様にももっと安心してホテル滞在を楽しんでほしい』と考えた従業員が集まって、検討チームを作ったのです。お子様のいる従業員が中心になって、授乳室やお子様と一緒に入れるトイレなど、お子様連れのお客様向けの設備を掲載したホテルマップを作るなどの活動を展開しました。そのチームがさらに発展して、検定受講を進めていきました」


ホテルニューオータニを運営する株式会社ニュー・オータニは2025年9月、新経営体制による経営・事業戦略「Refine Otani」を発表した。今後、この戦略に沿ったリニューアル工事などが予定されている。それを通じて、ユニバーサルツーリズムへの対応をいっそう深化させていきたいと片岡さんは言う。
「これから、日本全体でより高齢化が進み、インバウンド客も増加するなど、ホテルを利用するお客様の多様化はさらに進んでいくなかで、どんな方にも安心してご利用いただける、そして選んでいただけるホテルになっていくために、スタッフの教育にも力を入れるなど、ユニバーサルツーリズムの視点からの取り組みを引き続き推進していきたいと考えています」(片岡さん)
取材・文/仲藤 里美
(2026.02 Vol.754)
ホテルニューオータニ(公式サイト)
https://www.newotani.co.jp/tokyo/