令和7年春 褒章受章者インタビュー

すべての始まりはコミュニケーションから

黄綬褒章 業務精励(ホテル業務)

中齋 陽吉さん

(株)高山グリーンホテル サービス推進本部料飲部
(元・サービス推進本部料飲部宴会サービス参与)

中齋 陽吉さん

──黄綬褒章受章おめでとうございます。一番先にどなたに報告されましたか。

ありがとうございます。やはり家族ですね。妻には最初「なんであなたが?」と真顔で言われましたが、「地道にやってきたからね」と納得してくれて、なんだかほっとする思いでした。このような章を賜ることができて大変光栄なことですが、私自身は本当にただ地道に働いてきただけのことですから、家族や職場の皆様をはじめ、多くの方々が支えてくださったお陰に違いないと感謝の念を新たにしております。

──高山グリーンホテルで50年近くにわたり、宿泊や宴会の部門でご活躍されました。

公式には1979年入社としているのですが、実は高山グリーンホテルに最初に就職したのは高校を出てすぐの1974年でした。数年ほど働いてから、事情があっていったん職を離れた時期を挟んでの再入社。ですから、まさに通算で半世紀におよぶホテリエ人生です。今も料飲部で働いておりまして、まだまだ体力の続く限りは現役でいたいと思っています。

──若い頃はどのようなお仕事をされていたのですか。

こんな立派なホテルで働けたらなあと、ほとんど憧れる思いで入った場所でしたから、どんな仕事も一生懸命にやりました。ベルボーイから始めて、宿泊フロント、宴会、ブライダル、関連するスキー場のロッジなどとさまざまです。館内の売店をリニューアルすることが決まった際にはPRキャラバンの一員に加えてもらい、2カ月ほどかけて東京と大阪のデパート巡りをするという貴重な体験を積むこともできました。今も営業を続ける「飛騨物産館」というお土産ショップの誕生でした。

ホテルのサービスというのは、人と人との接点から生まれるものです。そのことを身をもって実感したのはブライダルのお仕事でした。当時はまだ、結婚といえば家と家との結びつきといった観念が根強く残っていた頃で、お打ち合わせもお客様のご自宅を訪問して、両家の皆様がご納得いくよう細部まで綿密に詰めていく作業を行いました。おそらく今以上に気遣いが求められる仕事だったように思いますが、それだけに無事に披露宴を終えられたときは感無量。お客様との密度の濃い交流が良き思い出として後に残ります。

──やはりお客様との心のふれあいが、ホテルで働くことの魅力でしょうか。

そのように思っています。マニュアルどおりの接客ではない、ごく自然な心の通うコミュニケーションが、リピートのご利用にもつながるのではないでしょうか。もともとここは繰り返し訪れる観光客が多い土地柄ですが、その中でも夏休みなどに高山グリーンホテルにお泊まりになったお客様が、冬には近隣の飛騨高山スキー場へと足を運び、系列の乗鞍ハイランドホテルに宿泊してくださる、そんなケースも珍しくありません。私は両方の職場を担当することもありましたので、「またお目にかかりましたね」と、より近しい間柄になれたような気がしてうれしく感じたものです。

最近、10年ぶりに当ホテルをご利用いただいたお客様から、思いがけずお声を掛けていただくことがありました。「ああ、まだお元気で働いていらっしゃった。頑張っていますね」と、お客様のほうから。うれしかったですね。私はふだん、できるだけお客様に声掛けをして、小さな会話が生まれるようにと努めているのですが、まさか10年も前のことを覚えていてくださるとは思いませんでした。

──宴会では「めでた」というお祝いの唄を披露されることもあると伺いました。

はい、この地方に古くから伝わる民謡のようなもので、お祝い事があるときに歌われるのですが、当ホテルではこれを、他地域からお越しになったお客様の宴席で従業員が唱和しておりまして。高山の伝統文化を知っていただくための取り組みの一つです。宴会スタッフ総出の出し物ですが、どういうわけか私が独唱パートを任されまして。

つい先日も、スペインからいらした団体のお客様の前で歌わせていただきました。もちろん日本語ですが、添乗員の方が通訳をしてくださいましてね。「めでた、めでたの若松さまよ、枝も栄える、葉も茂る」と、どう訳されたものか、お客様の大喝采を浴びまして。地域に根づいたホテルの良さというものを改めて知ったような、誇らしくもうれしい気持ちがいたしました。

──ホテルで働く若い世代や、ホテルで働きたいと考えている方々にメッセージを。

ホテルという場所は、外から見れば洒落ていて楽しそうに思えるかもしれません。私のように憧れが高じて職場に選ぶ方もいるでしょう。ただ実際には、お仕事ですから厳しいこと、辛いこともたくさんあるものです。どうか些細な失敗に負けることなく、根気よく続けていただけたらと思います。ホテルで働くことを選ぶ方ならきっと、お客様とのふれあいを大切にしたいと思われるはず。その気持ちを忘れずに、10年、20年、30年と歩み続けてくださることを願っています。

取材・文/編集部
(2025 7/8/9 Vol. 752)