
フードロス対策は創業当初から
沖縄県初の「社会的貢献会長表彰」受賞となったのは、石垣島の老舗・南の美ら花ホテルミヤヒラである。1953年創業の宮平旅館を出発点とする全245室の同ホテルは今、グループ7社からなる「美ら花グループ」の中核的存在だ。
「人口5万人の南の島から選んでいただき、大変うれしく思います。私たちの受賞が、全国のホテルの皆さんの励みになれば」。取り組みを担う安全衛生SDGs推進委員会の委員長を務める美ら花グループの島尻吉勝専務取締役は、こう晴れやかに語る。
表彰の対象は、大きく4つからなるSDGsの取り組みだ。まずはフードロス対策である。同ホテルは、創業間もない頃から、食べ残しや消費期限の切れた食材を回収業者に委託し、島内の家畜の飼料などとしてきた。農業や牧畜業と観光業の助け合いの一環として行っていたリサイクルだが、近年、処理法が変わり、廃棄食材は「燃やすゴミ」として排出せざるを得なくなっていた。
この状況を変えるべく、2023年10月からスタートしたのがMottainaiキャンペーンである。宴会の料理は、器などで見栄えを保つ工夫を施しながら、仕入れを必要最小限とし、当日は「3010運動」を促すほか、食べ残しがある場合は持ち帰り用容器を用意して、火を通した料理を中心に持ち帰ってもらう努力を続けている。結果、コロナ禍を脱して需要が急回復した23年に12.8%に上った食品廃棄率を、翌24年には9.8%に減少させた。
「お客様のSDGsの意識も高まっていて、協力を得やすいだけでなく、ホテルの評価につながることが多い」と島尻さん。今後も廃棄率を10%以下に抑えていく方針だ。


フードロスを減らすために宴会では食べ残しの持ち帰りを推奨している。
観光資源を守る活動が従業員の福利厚生と社会貢献に
2つ目が、環境保全活動である。美ら花グループでは、1986年から西表石垣国立公園内の無人島「カヤマ島」を所有・管理しているが、以来、毎夏の観光シーズン前に漂流ゴミの清掃や植栽を続けている。従業員の有志とその家族が参加するこの活動は、毎回数十人の規模で、従業員同士の交流の機会にもなっているという。「大切な観光資源を守るために始めた活動が、結果的に従業員の福利厚生や社会貢献につながった」とのこと。数年前からは、石垣島の観光資源を守る取り組みの一環として、平久保サガリバナ保存会が主催する島北部の「平久保サガリバナ植樹の森」での植樹や清掃への参加も始めた。


環境保全についてはホテル内でも取り組みを推進中だ。使い捨てアメニティは、フロント前にアメニティコーナーを設置して必要なものだけ利用してもらう仕組みを整備しているほか、客室清掃不要の意思表示をしてくれた宿泊客に1000円分の館内飲食券を進呈する「客室清掃スキッププラン」を10年以上前から実施している。利用客室数に対するスキッププランの利用率は、23年に41%、24年は35%と想定以上の数字に上っており、館内の料飲施設の売上増につながっているほか、客室清掃スタッフの人手不足問題の解消にも多大な貢献をしている。「労働環境の改善と同時に、これまで手の回らなかったところに手が届くことでサービス向上にもつながっている」と島尻さんはその効果の大きさを語る。
3つ目が、ひとり親家庭に対する取り組みだ。背景には、沖縄県は離婚率が高く、ひとり親家庭が多いという事情がある。同ホテルの職場も例外ではなく、身近な人々への応援の意味も込め、一般社団法人石垣市ひとり親家庭福祉会の協力のもと、23年から、夏休みにひとり親家庭を対象にした料理体験教室を開いている。
初年度はケーキづくり、2年目の24年は寿司づくりを実施。いずれもすぐに予約枠が埋まるほど人気で、当日には、家族で調理を楽しむほほえましい光景が広がったほか、保護者同士の交流の機会にもなったという。島の子どもたちは、高校卒業と同時に島を離れるケースが多い。このイベントには、料理を通じて子どもたちがホテルに興味を持ち、将来の就職先の選択肢に入れてもらえれば、というホテル側の期待も込められている。
ちなみに、同ホテルは高齢者に対するサービスも手厚い。館内の飲食施設で実施している「シニア割引プラン」は、65歳以上は10%の割引で、75歳以上は15%、85歳以上50%と大盤振る舞いだ。




ひとり親家庭への支援の一環として「親子でお寿司作り体験教室」を開催。お寿司を巻く作業が楽しいと好評の声が。
将来を担う島の子どもたちを応援する
最後が、将来を担う子どもたちに対する取り組みである。離島に住む子どもたちには、例えば部活動などの県大会や全国大会への出場に遠征費がかかるなどのハンデがある。こうした負担を少しでも軽減すべく、23年、コロナ禍で失いがちだった活躍の場を提供する意味も込め、全国や県の大会で優秀な成績を収めた小中高6団体が1000人の観客を前に演武や演技を披露するイベント「青少年応援プロジェクト2023」を開催。入場料収入を各団体に活動資金として贈呈した。
翌24年には、「カツカレーを食べて島の子応援プロジェクト2024」を立ち上げ、11月の土曜日計5日、ワンコイン(500円)でカツカレーを提供。来店した延べ788人分の売上にホテルが補填し、3万円ずつ15団体に活動支援金として贈呈している。この活動の根幹にあるのも「子どもは宝。将来は戻ってきてほしい」という願いだ。


毎週多くのお客様が来店したワンコインのカツカレー企画。売上金は島の子どもたちを応援するための活動資金として寄付された。
美ら花グループの取り組みは、世間のSDGs推進の風潮を受けて始められたものではない。活動を推進する18人からなる安全衛生SDGs推進委員会はコロナ禍前に設立されたものだが、前身となる安全衛生委員会は、SDGsがうたわれるずっと以前に活動を始めている。現在フードロス対策と呼ばれている活動も旅館創業当初からの取り組みの延長線上にあり、環境保全活動も然りだ。グループ7社の従業員300人のうち18人が身体障がい者であり、なかには沖縄県初の「もにす認定」を受けた企業もある。長年続けてきた取り組みが、気づけばすべてSDGs推進につながっていた、ということだろう。
「目新しいことをやるのではなく、日頃から続けていることを必要に応じて時代に合わせていく。それが大事だと思っています」と島尻さん。南の島で行われてきた老舗企業の地道な取り組みは、「地域と共に歩み、成長し、地域の人々から最も信頼される企業グループであり続けたい」という理念とともに、これからも変わらず続いていく。

取材・文/佐藤淳子
(2025 7/8/9 Vol. 752)
南の美ら花ホテルミヤヒラ(公式サイト)
https://www.miyahira.co.jp