日本ホテル協会 第6回社会的貢献会長表彰

優秀賞
より良い豊かな明日をつくる
ライブラリーホテルの挑戦

芝パークホテル

芝パークホテル

「ライブラリーホテル」とブックツリー

戦後間もない1948年に創業、東京・芝公園で歴史を刻んできた芝パークホテル。2020年のリニューアルとともに、「人、街、歴史をつなぐライブラリーホテル」という新たなコンセプトを掲げ、リブランディングを果たした。

「江戸の風情を残す土地で長年営業してきたホテルとして、『古き良きもの』の価値を後世に受け継ぎ、発信していきたい。また『読書離れ』が言われる中で、本という昔ながらの情報伝達手段についても、その良さを広く伝えていける存在でありたいと考えました」。同ホテルブランド戦略推進課の藤川欣智さんはそう振り返る。

館内の随所に書棚や読書スペースが設けられた「ライブラリーホテル」。その象徴的な取り組みが、年末年始にかけてラウンジに設置される「ブックツリー」だ。ホテルのゲストや従業員から読み終えた本を寄贈してもらい、それを使って大きなクリスマスツリーを制作する。年明けに展示を終えた後、売却。その収益を、世界の低所得地域に住む子どもたちに本を届ける活動を続けているNPO法人ルーム・トゥ・リード・ジャパンに寄付するという仕組みになっている。

「最初に『ライブラリーホテルにふさわしく、ブックツリーを制作してはどうか』というアイデアを出したのは従業員の一人です。コンセプトがはっきりしていると、それにつながるアイデアが出てきやすいと感じました。22年の冬からはルーム・トゥ・リード・ジャパンが展開している『ブックバトンプロジェクト』と連携し、現在の形で進めています」(藤川さん)

寄付によって集まった本でつくられたブックツリーはクリスマスシーズンを彩る風物詩に。
寄付によって集まった本でつくられたブックツリーはクリスマスシーズンを彩る風物詩に。
展示後に本を売却し、アジアやアフリカの子どもたちの識字能力向上や読書習慣の定着に役立ててもらう。
展示後に本を売却し、アジアやアフリカの子どもたちの識字能力向上や読書習慣の定着に役立ててもらう。

3年目となった前回は、十数万円をルーム・トゥ・リード・ジャパンに寄付。宿泊客だけでなく、レストラン利用の際に本を持ってきてくれるゲストがいたり、近隣の企業が社内で協力を呼びかけ、集まった本を寄付してくれたりと、広がりも感じているという。

「そうした身近なつながりが広がっていく一方で、本を通じてアジアやアフリカなどの遠い国ともつながることができるという双方の要素があること、またお客様も従業員も無理のない形で参加できる『参加型』の取り組みになっていることが、ブックツリーの魅力。何より『ライブラリーホテル』というコンセプトの延長線上にある私たちらしい社会貢献として、今後も継続していきたいと考えています」。藤川さんはそう語る。

日本の伝統文化を広く発信する

また、日本の歴史の中で育まれてきた伝統工芸や伝統文化を次の世代に受け継いでいきたいとの思いから、世界中から訪れるゲストにその魅力を広く知ってもらうための機会を数多く設けているのも、同ホテルならではの取り組みだといえる。

例えば、ロビーでは週に1回、宿泊客に無料でお茶を振る舞う「呈茶体験」を実施。気軽に楽しめる「テーブルスタイル茶道」のプロ講師が抹茶を点ててくれるとあって、行列ができることも少なくない人気ぶりだという。

また、実際に日本文化を体験してもらうプログラムも好評だ。その一つが「金継ぎ体験」。プロに学んでインストラクター資格を取ったホテルスタッフが講師を務め、合成漆を使って短時間でできる「簡易金継ぎ」を、ゲストに体験してもらう。「割れてしまった陶器をつなぐことで新たな価値を生み出すという、ものを大事にする日本ならではの文化や美意識を、体験を通じて感じ取っていただきたいと思っています」(藤川さん)

本に囲まれた空間で現代風の茶道体験を楽しむことができる。
本に囲まれた空間で現代風の茶道体験を楽しむことができる。
日本の伝統的な陶磁器の修復技法である金継ぎを気軽に体験できる。
日本の伝統的な陶磁器の修復技法である金継ぎを気軽に体験できる。

環境負荷削減の面では、「ライブラリーホテル」へのリブランディングを機に客室を改装、同時に環境配慮型のアメニティを多数導入した。特に、他の樹木に比べて成長が早いことから環境負荷が低いとされる竹製品のアメニティを、歯ブラシや客室キー、ごみ箱など13アイテムにわたって使用。「切り取ってしおりとしても使える」キーケースなど、アップサイクルデザインのアイテムも導入した。コスト面での苦労はあったものの、ゲストには非常に好評だという。

竹素材を使用したあたたかみのあるアメニティ。竹は3~4年で成長する持続可能な素材で、プラスチックの代替品として注目されている。
竹素材を使用したあたたかみのあるアメニティ。竹は3~4年で成長する持続可能な素材で、プラスチックの代替品として注目されている。

「こうした取り組みも、当初は『経営層や管理職が決めて実施する』という形がほとんどだったのですが、最近は現場で働くスタッフからの提案が増えてきました。お客様から直接『あれがよかった』と声をかけていただいたりと、手応えを感じられるからでしょうか、『社会貢献につながる取り組みをすることも私たちの仕事だ、そこに自分も参加できている』という感覚が広がる、非常にいい流れができていると感じます」。藤川さんはそう語る。

社会を「あたたかい心で満たす」ために

さらに、スタッフのモチベーション向上につなげるため、「グッドジョブ」と名づけた社内表彰制度も運用中だ。スタッフが互いに、「○○さんのこういうところがよかった」と「グッドジョブ」を社内イントラに登録していくという仕組みで、年間120〜180件程度が集まる。特に優れた事例については表彰制度もあるという。「ホテルの中に『褒める文化』をつくろうという狙いで始めたものですが、それがしっかりと定着してきたと感じています」と藤川さんは言う。

サステナビリティにおいても、社員研修の中に「サステナビリティにつながる取り組み」に関するプログラムを導入するなど、さらに社員の意識を高めていく考えだ。「サステナブル推進担当のポジションも設置していますが、だからといってその社員だけが取り組むのではなく、『全員が考える』のが当然という雰囲気をつくっていきたいと考えています。欧米ではホテルが社会貢献やサステナビリティに取り組むのは『当たり前のこと』。欧米からのお客様が多い当ホテルにとって、こうした取り組みはゲストのニーズに応えることでもあるのです」

芝パークホテルを含むリーガロイヤルホテルグループは2024年、「人を、地域を、日本を、世界を、あたたかい心で満たしていこう。」というパーパスを策定した。世界中から訪れる人をもてなすホテル業として、社会を「あたたかい心で満たす」ために何ができるのか。自分たち自身に問いかけながらの取り組みが続く。

取材・文/仲藤里美
(2025 7/8/9 Vol. 752)

芝パークホテル(公式サイト)
https://www.shibaparkhotel.com