
ホテルとしての問題意識と向き合い試行錯誤を重ねる
ホテルニューオータニの取り組みのタイトルは、「気づけばSDGs」と少々変わっている。なぜ、「気づけば」なのだろう?
ホテルニューオータニでは、厨房排水の再利用や生ごみ処理などの問題に、90年代初頭から地道な取り組みを続けてきた。2015年の国連サミットで持続可能な開発目標(SDGs)が採択されると、徐々にメディアの取材依頼が入り、お客様からも「環境問題や食品ロス対策について、そんなに前から取り組んでいたなんて知らなかったよ」という声が、寄せられるようになった。
「私たちはホテルです」と、広報課長の片岡慎一郎さんは言う。「ご利用いただくお客様には非日常を感じながら快適に過ごしていただきたい。でもふと、『そういえばこのホテル、環境対策はどうなっているのかな』とお客様が思われた時、実は裏ではきちんとSDGsに取り組んでいる。それが『気づけばSDGs』という表現になりました」
片岡さんによると、早くから環境問題やエネルギー問題を意識してきた根底には、「大規模ホテルとして、大量のエネルギーを使っているという自覚があった」という。その問題意識と向き合って、環境への負荷を少しでも小さくしようと試行錯誤を続けてきた延長線上に、気づけば「今」があるのである。
先生と子どもたちが見たホテルの循環型エコシステム
2024年度は、テーマに共感するステークホルダーとの連携を強化し、エコ活動と社会貢献活動の2つの分野で、SDGsの理念を広げていくことに注力した。
7月にホテルで行われた東京都の私立小学校協会の研修には、約30校から教職員が参加。ホテルのエコシステムを見学した先生方は、教育素材としても大いに興味をかき立てられたようだ。
例えば「中水造水プラント」では、1日約1000トンの厨房排水を100%中水としてリサイクルして、館内トイレの洗浄水や庭園の潅水用水として再利用している。
「コンポスト施設」では、1日最大5トン程度の生ごみを処理。加熱・攪拌、乾燥、異物除去を行い、4週間ほどかけて有機堆肥原料にして契約農家に販売。そこでつくられた農作物をホテルが社員食堂用の食材として再購入するという循環システムを構築している。
「先生方には、循環型インフラの事例として視覚的にも分かりやすいと感じていただけたように思います。参加校の1校は、6年生の社会科見学として再来館し、児童たちの研究発表に弊社の事例を組み込むなど、学習現場と実践現場をつなぐ取り組みに発展しました」(片岡さん)
この社会科見学は、SDGsを抽象的な理念としてではなく、目の前で動いている実践的な仕組みとして、子どもたちが捉える格好の機会となったようだ。


昨年は、観光系シンクタンク、および海外政府系機関(中東)の2団体も、エコシステムの見学に訪れた。同じく3月には、世界85カ国、約650の独立系高級ホテルやリゾートが加盟するプリファードホテルズ&リゾーツの年次総会でSDGsの取り組みが評価され、ホテルニューオータニはGIFTTS Pineapple Awards(総合コーポレート部門)を受賞している。
地元の祭りやイベントで社会に貢献
昨年はまた、コロナ禍で中断していた日枝神社(千代田区永田町)の山王祭が、6年ぶりに開催された年でもあった。山王祭は、京都の祇園祭、大阪の天神祭と並ぶ日本三大祭りの一つで、江戸時代より本祭とかげまつりが隔年で交互に開催されている。
「昨年は本祭の年で、神輿の行列が都心を練り歩き、スタッフも久しぶりに神輿渡御に参加しました。また200名におよぶ行列参加者に、ホテルの敷地を休憩所として提供し、地元の皆さんとお祭りを楽しみました。当ホテルは60年以上も赤坂・紀尾井町で営業しており、周囲には継承すべき場所や文化がたくさんありますから、こうした地域交流はとても重要なのです」
地元の催しへの参加は、SDGsの中の「住み続けられるまちづくりを」(目標11)、「パートナーシップで目標を達成しよう」(目標17)、「働きがいも経済成長も」(目標8)などに関連している。このように、地域の人々との協働もまた、持続可能な街の発展、共同体意識の醸成、経済の活性化などにつながっているのである。
近隣の上智大学と行うクリスマスチャリティコンサートは、2002年以来、毎年開催。正月の宿泊プランでは「チャリティビンゴ大会」で日本赤十字社への寄付を集め、能登半島地震や世界各地の自然災害による被災者の支援などにも力を入れてきた。


「活動を続けているうちに、社員の意識も変わってきます。当社のSDGsの取り組みや、考え方については、入社6年目くらいまで研修で繰り返し触れますし、日常的にも各職場でゴミを何十種類にも分けて分別しなければなりませんから」と、片岡さん。
こうして育まれる一人ひとりの「気づけばSDGs」。それを社内でさらに定着させるとともに、客室のアメニティの見直しなど、お客様にも見えやすい形で取り組みを広げていきたいとしている。
取材・文/田中洋子
(2025 7/8/9 Vol. 752)
ホテルニューオータニ(公式サイト)
https://www.newotani.co.jp/tokyo/