日本ホテル協会 第6回社会的貢献会長表彰

優秀賞
防災、循環型経済、ダイバーシティ
地域と共に3つの分野で活動を推進

SHIROYAMA HOTEL kagoshima

SHIROYAMA HOTEL kagoshima

自然災害における「防災リスク」の軽減努力

2024年度、SHIROYAMA HOTEL kagoshimaは、「進化し深化する。SHIROYAMA HOTEL kagoshimaのSDGs」というテーマで、「防災リスク」「循環型経済」「ダイバーシティ&インクルージョン」という3つの分野を中心にSDGsに取り組んだ。

1番目のテーマ「防災リスク」について、企画広報部部長の安川あかねさんは、近年、自然災害の被害が拡大していることを指摘。「防災知識や体制の見直し、社員一人ひとりが災害リスクを自分ごととして意識することが重要」と話す。

社員の防災意識向上に向けては、日本災害復興学会の復興支援委員会から講師を招き、全従業員を対象に防災セミナーを開催。セミナーの前後には、専門家である講師とホテル周辺の安全性を確認し、危険箇所や災害備蓄品の点検も行った。

「その時、倉庫などに保管していた大量の不使用什器は、処分した方が災害リスクの軽減になると教えていただいたのです。さっそく使っていない什器を仕分けして、大宴会場でフリーマーケットを開催しました。結果、わずか3時間ほどで8割を売却し、残り2割も再資源化することができたんですよ」と、安川さん。売上金の一部は、能登半島地震の被災地に寄付された。

防災セミナーの前後に、災害リスクになり得る箇所を確認した。写真は水道管チェックの様子。
防災セミナーの前後に、災害リスクになり得る箇所を確認した。写真は水道管チェックの様子。
倉庫に保管していた不使用什器およそ7000点を販売。フリーマーケットには400名近くのお客様が来場。
倉庫に保管していた不使用什器およそ7000点を販売。フリーマーケットには400名近くのお客様が来場。

昨年は防火防災避難訓練も、規模を拡大して実施した。各セクションから仮想客役を含む60名、消防署からは隊員20名が参加。エレベーターやトイレに閉じ込められた人の救出や、車椅子利用者の避難介助なども体験したという。

「緊急時に素早く対応できるよう、保安業務を内製化しました。現在は男性幹部社員が交代で宿直し、夜間の保安業務にあたっています。たまたまある晩、地震があったのですが、ホテルを知り尽くしている自社社員の対応は、館内の安全点検から情報共有までとても迅速でした。万が一の時にも、お客様の安全確保や、被害の最小化につながると思います」(安川さん)

産学の五者連携で目指す「循環型経済」

本格的にSDGsの取り組みを始めて5年、物を削減するだけでなく、資源の循環こそ大事だというのが、安川さんたちの気づきだ。そこで、資源循環の地域拠点である「サーキュラーパーク九州」といち早くパートナーシップ協定を締結。ホテルの廃棄物を高次元で再資源化できる体制を整備した。昨年の客室リニューアルの際に出た大量の廃棄物も、ベッドボードからデジタル時計まですべて関連施設に送り、100%の再資源化を実現した。コロナ禍で活躍したアクリル板は、地元の高校生たちの手で、案内板、クローク札、クリスマスツリーといった作品にリメイクされ、ホテルで再利用されている。

一方、産学のネットワークを力に、食品残渣を再生する取り組みも始まった。安川さんは次のように解説する。

「ホテルの敷地内に高温発酵乾燥処理装置を導入して、食品残渣をコンポスト化する実証事業を始動しました。当ホテルのブルワリーの麦芽かす、焼酎メーカーで出る焼酎かす、米ぬかなどを発酵促進剤として混ぜ、堆肥・飼料をつくるのです。それを使って提携農家で作物を育ててもらい、ホテルで仕入れることで食品残渣の循環モデルを構築します」

この事業は、県内の焼酎メーカー、鹿児島大学、サーキュラーパーク九州などの企業が参加する五者連携で進められ、地域の協働プロジェクトとしても注目されている。

国際社会でも、循環型経済は大きな関心事だ。昨年11月には、オランダのサーキュラーエコノミー(循環経済)視察団が鹿児島を訪れ、ホテルと意見交換会を行った。2050年までに100%の循環経済社会を目指すオランダとは今後も交流を続け、自社の取り組みの追い風にしていきたいと、安川さんたちは考えている。

アクリル板は県内の高校に寄付し、生徒のアイデアでクリスマスツリーなどさまざまな形で再利用された。
アクリル板は県内の高校に寄付し、生徒のアイデアでクリスマスツリーなどさまざまな形で再利用された。
ホテルから出る食品残渣を産学のネットワークでコンポスト化し、提携農家へ。そこで育った野菜はホテルで提供される。
ホテルから出る食品残渣を産学のネットワークでコンポスト化し、提携農家へ。そこで育った野菜はホテルで提供される。

国内外に「多様性・包摂性」の架け橋を

ダイバーシティ&インクルージョンに関しては、全社員対象の「多様性理解セミナー」を4回にわたって開催。ヒアリングフレイル(聴覚機能低下)、視覚障碍、高齢者・認知症に加え、イスラム圏からの実習生受け入れを前に、イスラム文化の理解促進もテーマに据えた。

ダイバーシティもインクルージョンも、ホテルの中だけで完結するわけではなく、外部と協力して行う活動もある。A型事業所(*1)への支援もその一つ。ホテル内の温泉に、障がいのある人たちをインターンとして受け入れて、作業を体験してもらいながら、いずれ就労する際に必要となる知識、社会性、技能などを磨いてもらおうというものだ。

海外との交流もダイバーシティの延長線上にある。オランダの視察団との交流に加えて、フランスの名門料理学校 FERRANDI Paris(フェランディ・パリ)とは、互いに研修生を送って短期研修を実施。仕事に励む調理部門のスタッフにとって、フランス研修は今後、新たなインセンティブとなりそうだ。

最後に安川さんは、この1年を次のように振り返った。

「資源を循環させようという意識が、ホテルの中に醸成されたことをうれしく思っています。また外部と力を合わせれば、自分たちだけではできないこともできるようになる。資源循環の取り組みを通じて、それを実感しました。今後も鹿児島のリーディングカンパニーとして、脱炭素社会の実現と循環経済の構築に努めたいと思っています」

多様性理解セミナーの一環として「イスラム文化を学ぶセミナー」を開催。皆、熱心に聞き入っている。
多様性理解セミナーの一環として「イスラム文化を学ぶセミナー」を開催。皆、熱心に聞き入っている。
創立100年以上の歴史を持つフランスの料理学校 FERRANDI Parisとの交流は、今後さらに進展していく予定だ。
創立100年以上の歴史を持つフランスの料理学校 FERRANDI Parisとの交流は、今後さらに進展していく予定だ。

*1 就労継続支援A型事業所
障がいや難病を抱える人が、雇用契約を結び、働く機会を提供する福祉サービス

取材・文/田中洋子
(2025 7/8/9 Vol. 752)

SHIROYAMA HOTEL kagoshima(公式サイト)
https://www.shiroyama-g.co.jp