
心のバリアフリー認定取得でアクセシビリティの向上へ
パレスホテル東京のサステナビリティ活動は「未来を、もてなす。」がコンセプト。ブランド戦略室室長の柳原芙美さんは、その意味を次のように話す。
「持続可能な未来を守るということを身近なキーワードで考えてみました。我々のSDGsの目的は、誰かを、何かを『もてなす』ことで、まだ見ぬ未来をもてなすこと、と言えば分かりやすいのではないかと考えたのです」
このコンセプトのもと、「人」「社会」「自然」という3本の柱を設けて、2024年もさまざまな取り組みを行った。
「人」の視点では、昨年、観光庁が定める「観光施設における心のバリアフリー認定」を取得。「誰も取り残さない」というSDGsの基本理念に沿って、世界ではアクセシブルツーリズムが注目されている。柳原さんはアメリカで開催されたある会議でそれを実感した。一人のアメリカ人俳優が登壇して、障がいのある立場から話をしたのだ。
「ホテルに関しては、『スタッフの親身なサポートに尽きる』との言葉が印象的でしたが、小さな気づきもたくさん得られました。ホテルで車椅子を貸し出しくれるのはありがたいけれど、杖の用意もあると助かるといったことですね。我々には、できることがまだたくさんあると思いました」
「心のバリアフリー認定」取得を機に、これまで以上にアクセシビリティを向上させ、それを分かりやすい形で発信していきたいと話す。
2024年はまた、社内のサステナビリティ研修にも力を入れた。前年の社内アンケートを通じて、自社のSDGsの取り組みをスタッフが十分に把握しきれていないと感じたためだ。研修では、SDGsに関するパレスホテル東京のコンセプト、実際の取り組みとその成果などをしっかり伝え、スタッフの理解度が上がったと手応えを感じたという。
和田倉濠の維持管理協定を特例で結ぶ
2つ目の「社会」とつながる取り組みでは、2022年から始まったイベント「Essence of Japan」の継続が挙げられる。2024年からは3県連続企画として「北陸シリーズ」と題し、現地のシェフとホテルシェフがコラボレーション。一夜限りのディナーイベントを行った。2月は福井県、8月は石川県を予定していたが、年明け早々に石川県能登半島で大地震が発生した。
「コラボレーションパートナーの皆さんと話し合った結果、お客様に現地の状況を知っていただく機会にもなるということで、開催に踏み切りました。当日は、石川県から来られたシェフのお話を聞いて、涙を流すお客様もいらっしゃいました」


日本各地の魅力を発信する「Essence of Japan」。2024年の北陸シリーズは、復興支援を兼ねて開催した。左は福井県、右は石川県のシェフによる美しい一皿。
日本各地の魅力を発信する「Essence of Japan」。2024年の北陸シリーズは、復興支援を兼ねて開催した。上は福井県、下は石川県のシェフによる美しい一皿。
一方、和田倉濠の環境保全活動は昨年から始まった新しい取り組みである。パレスホテル東京は、皇居外苑やお濠を望む美しい環境にあるが、昨年は夏の猛暑の影響もあってか、ホテル横の和田倉濠に水草が異常発生。ホテルとしてできることはないかと皇居外苑の管理事務所と協議を続け、2024年9月に和田倉濠の維持管理協定を特例で締結した。
「12月に水草の除去を行い、和田倉濠の景観が大きく改善されました。私たちはこの地で60年以上ホテルを運営しています。和田倉濠の環境保全はホテルにとっても、ときおり姿を見せてお客様の目を楽しませてくれる白鳥や水辺の生態系にとっても、大変重要な取り組みなのです。作業自体は専門の方にお願いしていますが、我々もいつかお濠に入って水草の除去を手伝えないものかと、冗談半分、本気半分で、話しています」
今年6月には2回目の水草除去を実施。取り組みは今後も続いていく。


皇居外苑の和田倉濠に隣接するパレスホテル東京にとって、和田倉濠の環境保全活動は大切な使命だと考えている。
使い捨てプラスチックの削減目標を前倒しで達成
3つ目は「自然」。和田倉濠の維持管理も自然を守る取り組みだが、ここでは自然に配慮しつつ、経済的な成長も維持する仕組みづくりに力を入れている。
昨年はまずLED化が進み、CO2換算で年間約240トン、約53万キロワットを削減した。シングルユースプラスチックについても、使用量を2024年までに2019年比で約60%減らすという目標を1年前倒しで達成。その後も使い勝手やコストを考慮しつつ素材の見直しを続けているが、簡単には代替できないものもあると、柳原さんは苦労を語る。
「例えば歯ブラシやカミソリなどですね。歯ブラシについては竹製を考えたのですが、カビが生えることが分かって断念しました。口に入れるものですから、安全性と感触にもこだわりながらプラスチックの含有量を減らす工夫を継続しています」
循環法の対象品目ではないが、客室の飲料水がペットボトルに入っているというだけで、敏感に反応する海外からのお客様は少なくない。今はアルミ缶に変更し、そのリサイクルも進めている。
スイーツ&デリで販売しているケーク サレやロビーラウンジのデザートなど、フードロス対策から生まれる商品の開発と販売は、すっかりホテルに定着している。現場からいろいろなアイデアが出てきて、日常業務の中で皆が自然に取り組む小さなSDGs活動も増えた。「もちろん、スタッフ全員が理解を深めるには、それなりに時間がかかります」と柳原さん。研修などの機会を利用し、スタッフのさらなる意識向上に取り組んでいきたいと意気込む。


取材・文/田中洋子
(2025 7/8/9 Vol. 752)
パレスホテル東京(公式サイト)
https://www.palacehoteltokyo.com