
住宅街にあるホテルだからこそ
社会的貢献会長表彰の優秀賞に輝いたホテルカデンツァ東京。受賞の決め手となったのは、開業以来、30年にわたって地道に積み重ねてきた「地域に開かれたホテル運営」である。
「当ホテルは東京・練馬区に位置し、周囲は住宅街です。開業当時から、こんなベッドタウンの真ん中にホテルなんて……と驚かれることもありました。でも、逆にその地の利を考えたホテル運営もあると思うのです」と語るのは、ホテルカデンツァ東京・代表取締役兼総支配人の塚原和幸さんだ。
当時の親会社は、地域住民に集まってもらえる空間になるよう、地域の人の役に立つ施設をつくりたいとの理念を掲げていた。その理念を実現すべく、オフィスなどが入った複合施設とともにホテルが開業されたのだった。
「地域の人とのつながりを大事にしようという思いは、私をはじめ、スタッフ一同に今も受け継がれています。開業から30年たった今、むしろその思いは強くなっていると思います」(塚原さん)
目指すは、地域の人々に信用され、親しまれ、長く愛されるホテル。そのため、ホテルカデンツァ東京では、実にさまざまな取り組みを展開している。
例えば、最寄りの3駅への「足」として利用してほしいという考えから、運転免許を返納した高齢者にホテルの送迎バスを開放。
「送迎バスの開放によって、地元の他の企業様が『ホテルカデンツァ東京が面白い取り組みを始めたぞ。うちは、送迎バスは出せないが、〇〇という形なら地域づくりに参加できそうだ』と考えるきっかけになるといいなと思います。地域の活性化の一助になればうれしいです」(塚原さん)
また、オフィス棟の会議・打ち合わせスペースを「こども自習室」として開放している。これはコロナ禍をきっかけにスタートした取り組みで、「子どもの居場所になり、助かっている」と子育てファミリー層に大好評。これまでに延べ3000人もの子どもたちが利用しており、今後も続行していくという。そのほか、「お散歩コース」として、ロビーなどを近隣の幼稚園・保育園児に開放している。季節感あふれるロビーの飾りや雰囲気は、きっと幼い心にワクワク感をもたらしているに違いない。


「お客様にホテルに来ていただくだけでなく、私たちホテルのスタッフが区民イベントや町内会のお祭りに出店し、地元食材を使った商品を販売することもあります」(塚原さん)
一回きりの大がかりなイベントをやって終了するのではなく、地道に見える取り組みを続けてきたホテルカデンツァ東京。今回の受賞では、地元住民から数々の祝福の言葉が寄せられたという。
「お客様からのメッセージやお褒めの言葉は、本当にありがたいです。スタッフもやりがいを感じ、ますます頑張っています」(塚原さん)
地域の安心安全にも貢献する
住宅街にあるホテルとして、災害時には住民の暮らしをサポートすることも大切な役割だと語る塚原さん。コロナ禍では、医師や看護師など地域医療を担うスタッフのために支援活動にいち早く取り組んだ。
また、東京電力パワーグリッド株式会社と「大規模災害時応急対応協定」を締結。災害時に停電が起きた際、その復旧に当たるエンジニアや現場の人々をサポートするための仕組みを整えている。これも、地域住民への安心安全につながっている大切な取り組みだ。
「停電が起きる前にサポート体制を整えておくこと、少なくともあらかじめ方策や指針を考えておくことは大切だと思います」(塚原さん)
今年は、区の介護・フレイル予防イベントに会場を提供することも決まっている。フレイル予防の体操には広めの空間が必要ということで、ホテルの大宴会場を提供することにしたそうだ。
お客様とともに楽しめるホテルでありたい
ホテルカデンツァ東京では、行政や企業との連携のほか、ホテル主催のオリジナルイベントにも注力している。
例えば、今年で8回目を迎える「Aloha Festival」。近年、ハワイ文化が人気を博しているが、この辺りでもフラダンス教室が活況を呈している。せっかく練習しているフラダンスを披露する場があればいいのに……。そんなお客様の声から、ステージでのフラダンスの披露、ハワイ料理や飲み物、ハワイアングッズの販売など、南国ムードをたっぷり楽しめるイベントが誕生したのだった。
「ステージショーへの出演は教室単位の申し込み制ですが、見にいらっしゃるのは、個人のお客様も大歓迎です。ぜひ多くの方に楽しんでいただきたいと思っています」と語る藤本晶さん(ホテルカデンツァ東京企画広報部 兼 婚礼グループ主任)。藤本さんは今年で2回目の開催となる「ゆかた祭り」の準備も進めている。
「毎年同じことをしていてはお客様に飽きられてしまうので、お客様のニーズやトレンドも取り入れて、バージョンアップしていきたいです」(藤本さん)


地域に開かれたホテル運営を実践し続けているホテルカデンツァ東京。塚原さんによると、地域に根付き、愛されるホテルになるまでの道のりは遠く、時間がかかるものだとか。それでも、今日もまた、スタッフ一同がお客様の声に耳を傾け、お客様とともに楽しみを分かち合っている。その心意気と姿勢は、これからも支持されていくだろう。
取材・文/ひだいますみ
(2025 4/5/6 Vol. 751)
ホテルカデンツァ東京(公式サイト)
https://www.h-cadenza.jp