
食品ロス削減の潮流に乗り、「食べ残し持ち帰り」推進へ
ホテルメトロポリタン エドモントが業界に先駆け、「食べ残し持ち帰り」の本格的な取り組みに乗り出したのは、2022年4月のことである。同ホテルを含む、日本ホテル株式会社が展開する9つのホテルが一丸となって始めた挑戦だった。
宴会などで出される料理は食べ残しが生じやすく、まだ食べられる食品が捨てられてしまう「食品ロス」の原因の一つとして問題視されてきた。しかし、持ち帰りには食中毒などのリスクが伴う以上、飲食店としては消極的にならざるを得ない事情もある。特に、ブランド価値を重視する高級レストランやホテルが二の足を踏むのは無理もない。
だが、2019年10月に食品ロス削減推進法が施行、翌年3月には政府の「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針(第1次)」が出て、食品ロス半減の目標が示されると潮目は変わる。2022年になると、環境省や消費者庁、農林水産省などによる、飲食店での食べ残し持ち帰りを推奨する「mottECO(モッテコ)」運動が始動。日本ホテルはいち早くこれに名乗りを上げ、9ホテルのレストランや宴会場でmottECOを導入。持ち帰り用に認証された紙製容器の提供を始めた。
同時に、産官学民の連携で活動するmottECO普及コンソーシアムにも参画。外食産業などと連携し、業界を超えた普及啓発活動に大きな役割を果たす。2023年と2024年には、同コンソーシアムが主催する普及イベント「mottECO FESTA」をホテルメトロポリタン エドモントで開催。関係省庁、自治体、事業者、大学、業界団体などから多くの参加者を集めた(2025年も継続して開催)。
2024年の場合、日本ホテル9施設におけるmottECO利用実績は合計715件。お客様からの苦情は現在まで1件もないという。


ホテルメトロポリタン エドモントで開催された「mottECO FESTA 2024」。「もったいないメニュー」を実食することができる「mottECO体験コーナー」もあり、関係省庁や自治体、事業者など多くの参加者が食品ロス問題について学んだ。
業界を代表し、政府の「ガイドライン」策定に協力
食べ残し持ち帰りの普及に貢献するこうした実績が土台となり、一連の活動を牽引してきた日本ホテル取締役でホテルメトロポリタン エドモント総支配人(取材時/現 同社顧問)の松田秀明さんは、2024年5月から12月にかけて、消費者庁と厚生労働省がそれぞれ開催した食べ残し持ち帰りの促進を目的とするガイドライン策定検討会のメンバーとして招へいされた。
「食べ残し持ち帰りの促進は、食品ロス削減の起爆剤になり得る重要な政策です。ただ、それには当事者である事業者の理解と協力が欠かせません。どうすれば取り組みを加速させられるのか、事業者の目線から意見を述べてほしいというご依頼でした」(松田さん)
松田さんによれば、ホテル業界でもmottECO運動の成果は出始めていたものの、広がりはまだ限定的であり、業界全体に「一歩を踏み出せない」風潮があったという。その要因は、食中毒などの衛生面での懸念、そしてもし健康被害などが起きた場合、事業者はどこまで責任を負うのかという法的懸念。ガイドライン策定の目的もこれらを整理し、事業者と消費者それぞれの不安を取り除くことにあった。
「私どもでは、自らmottECOを実践し、他業種とも情報交換を続けてきて現場の実情を知る立場から、取り組みを促進するには主に3つのポイントがあると考えていました。すなわち、①食べ残し持ち帰りに関する事業者と消費者の管理責任の明確化、②食中毒などが発生した場合の法的責任のあり方、③その場合に保健所からどのような指導があるかの明確化、です」
これらはすべて検討会において俎上に載り、2024年12月に発表された消費者庁・厚生労働省による「食べ残し持ち帰り促進ガイドライン〜SDGs目標達成に向けて〜」に反映されることとなった。今回の日本ホテル協会主催「社会的貢献会長表彰」における最優秀賞受賞の主な理由はこれである。
mottECO普及を進める絶好のチャンスを生かして
日本ホテルにおける食品ロス削減への取り組みの原点は、2017年にさかのぼる。統括名誉総料理長の中村勝宏シェフが国連食糧農業機関(FAO)の日本担当親善大使に任命されたのを機に、全社横断の食品ロス削減プロジェクトが発足。ホテルメトロポリタン エドモントを中心に、食材調達・調理プロセスの見直しや、ブッフェなどでの無駄を減らす盛り付けの工夫、廃棄されていた食材を生かす「もったいないメニュー」の開発、宴会等で乾杯後の30分と閉会前の10分に飲食を促す「3010運動」など、矢継ぎ早に対策を打ち出した。

2021年には社長を委員長とするSDGs推進委員会を結成。食品分科会を設けて松田さんがリーダーに就き、四半期に一度はグループ各ホテルの総料理長、総支配人室長などを集めて課題と対策を話し合い、情報共有を進めてきた。こうした取り組みをベースとして、食品ロス削減をさらに前へ進めるための第二段階として着手したのが、mottECOだった。
では、第三段階は。食べ残し持ち帰り促進ガイドラインの運用が始まり、一定の環境ができたと思われる今が、そのスタートラインだと松田さんは言う。同社9ホテルではすでにこの4月より、かねてから運用していたmottECOに関するお客様への案内書面や利用規約、社内マニュアルなどをガイドラインに則して改訂したほか、社内勉強会を行い、従業員が適切に対応できるよう体制を整えている。
「社内はもとより、業界内外での普及に努めることが、第三段階のミッションです。そのための方向性は2つ。一つは日本ホテル協会の会員ホテルの皆様にもっと参画していただくこと。すでにmottECO勉強会を開くなどして、啓発活動を進めています。もう一つは、mottECO普及コンソーシアムの活動を通じて裾野を広げること。mottECO FESTAなどの場で、企業が取り組むべき課題、事業者、消費者の役割りなども含めて広くPRしていきます」
やがてお客様にも理解が広がり、日本ホテル協会の会員全てが「SDGsに積極的に取り組むホテル」として高い評価を得て、進んで選ばれるホテルになること。それが、協会SDGs委員会委員も務める松田さんの願いである。
取材・文/編集部
(2025 4/5/6 Vol. 751)
ホテルメトロポリタン エドモント(公式サイト)
https://edmont.metropolitan.jp