ホテルが発信する着地型観光コンテンツ

大自然の魅力を安全に満喫できる
屋久島発のプログラム

屋久島いわさきホテル

山並みと庭園を望む、天井までの大きなガラス窓を備えたホテルの吹き抜けの空間。窓際には椅子とテーブルが並び、グランドピアノが置かれている。

世界自然遺産の島の魅力に触れる

屋久島がユネスコ世界自然遺産に登録されたのは1993年。その2年後の1995年に、屋久島いわさきホテルは開業した。まさに創業時から、屋久島という世界自然遺産と共に歩んできたホテルである。

屋久島には毎年およそ25万人が来島する。その多くが、島の豊かな自然に惹かれて訪れる観光客だ。彼らが目指すのは、アニメ映画『もののけ姫』の世界を思わせる深い森や、樹齢2000年を超えるといわれる縄文杉、霧にかすむ九州最高峰の宮之浦岳などだ。

しかしこうした「秘境」ともいえるスポットは、旅行者にとってアクセスが容易ではない。山中で道に迷ったり、滑りやすい場所で足を取られたり、天候が急変して立ち往生したり、落石や増水に遭遇したりと、さまざまなアクシデントも起こり得る。都会と違って電波が届かない場所が多いため、いざというとき携帯電話が使えない可能性も考えておく必要があるだろう。このため屋久島町では、観光客を歓迎すると同時に、遭難事故防止の注意喚起にも余念がない。

険しい山並みを背に、森林の中に建つ屋久島いわさきホテル。中央に三角屋根があり、その左右に横長の建物が広がっている。
世界自然遺産・屋久島の自然に囲まれて建つ、屋久島いわさきホテル。

実際にルートを歩いてプログラムを開発

そんな屋久島の着地型観光は、安全に、無理なく、でも心ゆくまで自然を満喫したいという、観光客の期待に応えるようにして開発されてきた。屋久島いわさきホテルでも、そうしたプログラムを複数提供している。

特に人気が高いのは、縄文杉を目指して片道11kmの登山に挑戦する「縄文杉トレッキング」。そして、幻想的な屋久島の森を行く「白谷雲水峡(しらたにうんすいきょう)トレッキング」だ。ほかに、リバーカヤックや、森の樹上に設けた「空中回廊」散策などを楽しむ人も多い。これらのプログラムには、基本的に専門のガイドが同行している。総支配人の川畑光信さんは言う。

「プログラムは屋久島観光協会とも情報共有し、地元の公認ガイドさんと協力して実施しています。またプログラムの開発にあたっては、ホテルのスタッフも実際にルートを歩いて見どころをチェックし、危険な場所はないか、無理な行程にならないかなど、丁寧に確認しています。そうやって少しずつ、ご提供できるプログラムを増やしてきました」

安全対策の面からも、アクティビティに参加するには、それなりの装備が必要だが、トレッキングシューズや雨具、あるいはトレッキングポール(ストック)など、主なものはホテルでレンタルすることができる。

「屋久島に着いてから装備を借りれば、旅行中は身軽に過ごすことができます。一日がかりのアクティビティでは、お弁当もホテルでご用意しています。当日の気象予測や、プログラムに関するお知らせや注意事項についても最新情報をお伝えしていますので、どなたでも安心して参加いただけると思います」(川畑さん)。

「千年杉」と書かれた案内札のある大きな杉の前で、トレッキングポールを持った2人が木製の足場に立っている。太い幹には苔や植物が生え、周囲には木製の柵が設けられている。
「本富岳(モッチョム)」と書かれた札のある山の岩場に腰掛けた2人。左の人は札のある方向へカメラを構え、リュックを背負った右の人も同じ方向を見ている。背後には青空と白い雲、緑の山並みが広がっている。

「一生に一度は訪れてみたい」と多くの人を魅了する屋久島。トレッキングで出会う、豊かな自然が織りなす景色はまさに絶景。

3つのおにぎりと焼き魚、卵焼きなどを詰めた弁当。横にはかんきつ類とバナナが添えられ、手前に割り箸とおてふきが置かれている。
リュックを背負った2人が、山並みを見渡せる岩場に立っている。左の人が前方を指さし、右の人もその方向を見ている。

ホテル特製のお弁当を持って、屋久島の大自然へ。装備から食事まで充実したサポートで、安心してアクティビティを楽しめる。

地元を知るからこその柔軟な対応も

屋久島のように、自然そのものが観光資源である地域では、やみくもな観光推進は、貴重な観光資源を損なう結果につながる場合もある。

「『縄文杉を見るために、どんどん山へ入っていい』ということだと、どうしても自然が荒れてしまいます。ごみや排泄物の問題も出てきますから、自然環境への負荷に配慮して、ある程度人数を抑えるという考え方もあるでしょう。貴重な観光資源を守りながら、訪れる人に楽しんでいただく努力が、屋久島の着地型観光では重要だと思っています」と川畑さん。

一方、ネットや電話を通じて、ホテルにはさまざまな問い合わせが入る。

「ホテルから『ヤクスギランド』へのアクセスは?」
「来月、縄文杉を見に行きたいが、この時期の天候はどう?」
「トレッキング用のウェアや靴のレンタルはある?」

など、問い合わせの内容は、やはり現地でのアクティビティに関するものが多い。インターネットであれこれ調べることはできても、やはり現地に直接問い合わせることで、最新の生の情報が得られる。現地ホテルとのこうした距離の近さは、旅行者にとって着地型観光のメリットであり、魅力の一つといえるかもしれない。

着地型観光プログラムが充実することにより、ホテルの宿泊日数も自然と長くなる。

「当館の場合、個人の方もツアーの方も、3泊くらいが主流です。見たいものや、やりたいことがいっぱいで、最低でも丸2日はないと何もできませんからね。お客様と話していると、『一生に一度でいいから、屋久島の森を見てみたかった』とおっしゃる方が多いのです。念願の縄文杉を見て、しかも往復の道のりが歩けたと、顔を輝かせる年配のお客様からのお話を聞いて、私たちも喜んでいます」(川畑さん)

近年、リピーター客が増えるに伴い、屋久島いわさきホテルのフロントでは、オリジナルのルートで島を歩きたいという相談も増えてきた。その都度、お客様の要望を聞き、説明したり、調べたり、必要ならガイドを手配したりする。ホテルが提供するプログラムを離れても、屋久島観光に関する限り、地元のホテルとしてお客様に伴走しているのである。

島の天候は目まぐるしく変わる。急に激しい雨が降り出す。一気に気温が下がる。霧が出て見通しが悪くなる。そうなると、山や森に入るのは危険だ。

「そういうときは、じゃあ代わりに別の場所を体験しましょう、他のものを見に行きましょうと提案します。例えば、屋久島西部林道は、野生のヤクザルやヤクシカに出会える、車で通行可能な唯一の世界自然遺産地域で、海岸から山頂まで続く日本最大の照葉樹林が広がる場所でもあります。また、ホテルの庭園にも自然がいっぱいですから、安全に散策できます。常に代替案が用意してあって、いつでも柔軟に、臨機応変に対応できるのは、この土地をよく知る私たちならではの強みかもしれません」

土地を熟知する人たちが関わる強み。それがそのまま、屋久島の着地型観光の強みとなっている。

ホテルの庭園の芝生と木々の向こうに、険しい山並みが連なっている。山の斜面は森林に覆われ、稜線の上には白い雲が広がっている。
屋久島の自然を身近に感じられるホテルの庭園。山に入れない日には、ここでゆっくり散策を楽しむこともできる。

取材・文/田中洋子
(2026.10 Vol. 758)

屋久島いわさきホテル(公式サイト)
https://yakushima.iwasakihotels.com