
「体験」を軸にしたホテルのブランドの再定義
西武グループの中核企業である西武・プリンスホテルズワールドワイドでは、全国に展開するホテル施設にて、その土地でしかできない「体験」を展開している。
同グループが2024年に発表した「西武グループ長期戦略2035」では、2035年を目処に、日本をオリジンとするグローバルホテルチェーンを目指すという大きな目標を掲げている。それに向けた戦略として、ネットワークの規模拡大に加えて、各事業所のパフォーマンスの向上にも取り組む。その戦略の柱となるのが、「五感を揺さぶる体験創造」である。
この方針の基になっているのは、2022年に発足したブランドプロジェクトだ。その目標は、「西武プリンスホテルズ&リゾーツの顔」といえるような新しい体験価値をつくり上げること。コロナ禍でインバウンド需要が落ち込んでいた当時、国内の旅行需要に応えるために足元を見つめ直そうという狙いもあった。このプロジェクトを発展させる形で、西武プリンスホテルズ&リゾーツへ足を運ぶ動機になるような価値ある体験づくりに力を注いできた。
全国各地のホテル・レジャー施設の企画を統括する立場にある、セールス&マーケティング部次長の嶋田泰也さんにお話を伺った。
「魅力ある観光プランを企画する上で、どうしても各施設の総支配人の思いや、現場担当者の好みなど、個人の感性やスキルによるところが大きいという課題がありました。それも必要なことですし、必ずしも悪いことではありませんが、それだけに依存していては、数ある事業所で同様に事業を進めることは難しい。体験づくりを『どう仕組み化するか』が何よりも重要でした」
ブランド価値を高める新しい企画のアイデアを生み出すため、同社では二つの会議体を設け、それぞれ四半期に一度の頻度で実施している。
各施設の総支配人などを集めて行う「GMカンファレンス」では、各自に会社の理念を浸透させるとともに、好事例の横展開、新しいブランドづくりに向けたマインドの共有などを目指す。
一方、各事業所の魅力開発メンバーが一堂に会する「魅力開発会議」では、個別の企画案についてディスカッションを行う。皆で意見を出し合うことで、性別、年齢、属性などの多様な視点が加わり、魅力的な企画が生まれやすくなる。「知恵の総和」を上げて、アイデアの幅を広げる狙いがある。会議で出た企画は、その後、進捗の確認も含めて、毎月ミーティングを重ねてプランを練り上げていく。
「トップダウンとボトムアップ、二つの会議体ができたことで、グループ全体に意識の変化が生じています。私たちが目指しているのは、単に観光プランを提案することではありません。お客様一人ひとりに何を感じてほしいか、その地域でどんな体験と出合ってほしいかという、より根源的な価値を生み出すことを目指しているのです」
ホテル利用者に価値ある体験を提案する上で、同社では各事業所に「季節体験」をつくることを命題にしている。地域ごとに四季折々の魅力を中心に据えて、その価値を味わえるようなプランづくりを目指す。


魅力開発メンバーが全国から集結し、魅力ある体験プランを創出する。
上級者向けスキー場で、究極のスキー体験を
長野県のスノーリゾート「志賀高原」にある志賀高原プリンスホテル・志賀高原焼額山スキー場では、極上のスキー体験を意味する「人生最高の一本」をコンセプトとして掲げている。志賀高原焼額山スキー場は、きわめて良質のパウダースノーと高難度のコース設計もあいまって、中〜上級スキーヤーに高い人気を誇る。その強みを生かして、ターゲット層により強く訴求するための体験を提案している。プランは次のような内容だ。
前日の夜、バーラウンジを貸し切って特別なコース料理を食べたのち、翌日に備えてスイートルームの最上級のマットレスを使用したベッドで体を休める。夜明け前に専用の圧雪車に搭乗して山頂へ向かい、特設テント内で挽きたてのコーヒーを飲みながら美しい日の出を眺める。そして、いよいよ滑走スタート。他に誰もいないゲレンデを独り占めにしてファーストトラックを滑る体験は、まさに「人生最高の一本」にふさわしい。また、滑降する様子を専属カメラマンが撮影するほか、当日に向けたスキー板へのワクシングも専属のバトラーが行うなど、行き届いたサービスを受けることができる。


志賀高原焼額山スキー場で「人生最高の一本」を体感する。
群馬県の嬬恋村にある万座プリンスホテルでは、夏秋キャベツ出荷量日本一を誇る嬬恋村の魅力を堪能する企画を実施。同エリアの希少な品種「麗峰(キャベツ419ヨンイチキュー)」は、甘味が強くてレタスのような食感が特長。しかし、鮮度の維持が難しく市場への流通が少ないことから、希少価値の高いキャベツといわれている。
ホテルのメインダイニングルームでは、このキャベツを使ったフルコースを提供するほか、ブッフェレストランでは、最もおいしい一皿に投票してもらう第2回「キャベツ料理グランプリ」を開催。さらに、ランチでのザク切りキャベツ食べ放題や、宿泊利用者への重さ当てイベント、キャベツ一玉プレゼントなども期日限定で行っている。


「麗峰(キャベツ419)」をふんだんに使った絶品コース料理を堪能。
協働を軸にして地域全体の発展につなげる
西武プリンスホテルズ&リゾーツでは、全体で取り組みを進める上で、地域の自治体や他の事業者との連携も大切にしている。各施設には、長年培ってきた地域内のネットワークがある。その関係性を生かして新しいアイデアをつくり上げたり、新しいパートナーを紹介してもらったりすることが、体験プランの開発にはきわめて有効となるという。
地域とのつながりに重きを置く同社の姿勢の根本には、創業の地である長野県軽井沢において、「別荘」「リゾート」という新しい価値を創造し、それを社会に広く根付かせたことへの強い自負がある。地域全体の発展につながる成功は、一社で成し遂げるものではなく、地域全体を巻き込み、多くの協力を得てこそ実現できると嶋田さんは語る。
グループでは今後、四季折々の体験に加えて、当地の“シグニチャー”と呼べるような、通年で楽しめる体験の検討を進めていく。それぞれの地に、「プリンスホテルといえば◯◯」と言われるような体験を生み出すことを目指し、西武・プリンスホテルズワールドワイドの挑戦は続く。


取材・文/柴野 聰
(2026.10 Vol. 758)
西武・プリンスホテルズワールドワイド(公式サイト)
https://www.princehotels.co.jp