
旅行業登録を経て観光プランを販売開始
JR高崎駅直結という利便性の高さで人気のホテル、ホテルメトロポリタン高崎では一昨年より、宿泊がセットになった独自の観光プランを自社で企画・販売して好評を博している。同ホテルが取り組む着地型観光の実践について、営業部営業企画課課長・齋藤卓さんと同課係長・𠮷田萌さんに話を聞いた。
「2023年6月に旅行業の登録を行ったことを機に、オリジナルの観光プランを企画して販売しています。これまで、当ホテルの利用客はおよそ7割がビジネス目的でした。ビジネス利用の場合、1泊のみの滞在プランが中心なので、顧客単価を上げるには限界があります。そこで、新たにレジャー層の顧客を開拓したいと、旅行業登録に踏み切りました」(𠮷田さん)
この新規事業開発には、宿泊利用に地域観光という付加価値をつけることで、顧客満足度と売り上げの両方を向上させたいという思惑もあったという。
新しい観光プランを生み出す作業は、完全に未知の領域。齋藤さんたちは、全てが手探りの状態でゼロから作り上げなければならなかった。まず考えたのは、JR東日本グループの一員であることの強みを生かした、鉄道に関連するツアーの企画だ。
高崎市は、明治時代から北関東における鉄道網の拠点として発展した歴史を有する。現在でも観光向けにSL(蒸気機関車)が運行するなど、古くから鉄道との関わりが深い土地だ(2026年10月現在は運休中)。
そこで、2024年末に通常運転を終了する電気機関車とディーゼル機関車の引退に合わせて、列車の乗車券、横川駅での撮影会などをセットにした鉄道ツアーを企画した。ツアー参加者からは、「車両を独り占めにできてうれしい」「駅長さんとお話をする貴重な体験ができた」といった大きな反響があった。


機関車を間近で楽しめる鉄道ツアー。高崎駅でのSL撮影や横川駅での機関車の撮影など、鉄道ファンにはたまらない企画となった。
深夜の駅を見学できる人気ツアーが誕生
さらに、2025年からは、「高崎駅ナイトツアー」を毎年実施している。通常は立ち入ることのできない夜間の駅構内を見学できるツアーは、コアな鉄道ファンを中心に人気を博している。ナイトツアーは今年で2回目の開催で、いずれも完売するほど人気のプランだが、初回実施後には多くの反省点が残ったという。
「鉄道ファンの皆さんに満足してもらおうと多くの要素を詰め込んだ結果、想定よりも単価が高くなってしまった上、ツアーの所要時間が長くなり、結果として参加者への負担が大きくなってしまいました」(齋藤さん)
その反省を経て今年実施した同プランの内容は、次の通りだ。
参加者は夜11時過ぎにホテルのロビーに集合。駅に移動して、新幹線改札の終業作業を見学。それから、かつて特急列車の発着に使われていたが現在は乗降には使われておらず、普段は立ち入ることのできない1番線ホームや、旧信号所内に残された制御盤など、当時実際に使われていた貴重な設備や品々を見学。さらに、ホーム上でのアナウンスと発車ベルなど、駅員の仕事を擬似体験する。
前回の実施内容と比べて「『鉄分』が薄まった」ことで、引き合いが減るのではという企画担当者の心配に反して、15組の定員はわずか3時間で完売した。


深夜の高崎駅を舞台に、普段は立ち入れない場所を見学。鉄道の裏側に迫る人気のナイトツアー。
また、人気の観光施設、碓氷峠鉄道文化むらの入園券付きのプランも販売している。売れ行きが鈍くなってきたことを受けて、施設の担当者と協議した末、現在では、電気機関車(EF63)のシミュレーター体験を追加したプランを販売中だ。
他にも、地元で開催される日本酒の試飲イベント「KANPAI! GUNMA」とのコラボ企画として、同イベントの前売り券と、県内最古の酒蔵の見学ツアーなどをセットにしたプランも販売した。来年以降も、イベントの開催に合わせて同様のプランの販売を予定している。


継続して実施するために無理は禁物
新しい観光プランを企画する際は、必要以上に「狙いすぎない」「無理しすぎない」ことを念頭に置く。どれほど魅力的なプランでも、実施する自分たちが無理をしては、継続実施が難しくなるという思いがそこにはある。無理することなく、参加者に満足してもらえるプランづくりを目指す。
「企画する側としては、もう少し内容を濃くしないと満足してもらえないのでは、という思いから、つい詰め込みたくなります。ですが、実際にツアーに参加した人の反応を見ると、必ずしもそれが正解とは限らないことに気づきました。そうしたお客様との意識のギャップにも考えを巡らせています」(齋藤さん)
加えて、ホテルスタッフは通常業務の傍らでプランを実施することになるため、あまり無理をしすぎては持続できなくなる。協力してもらう企業や施設の担当者と、お互いにアイデアを出し合いながら、実現可能なプランを模索している。
なお、旅行業登録したことで生じる実務的な苦労は決して小さくなかった。それまで旅行業プランの企画チームでは、業務上の契約締結を行う機会がほとんどなかったうえ、一から作成しなければならない契約書もあった。社内で調べながら、法的に正しい業務の進め方を模索する必要があり苦心したという。
一方で、ホテルとして旅行業登録を行うことで、コンプライアンス面での好影響も生まれている。専任が義務付けられている有資格者(旅行業務取扱管理者)を配置したことで、宿泊や会場利用のお客様から依頼を受けてバスの手配などを行うといった場合に、従来にも増して法令遵守を徹底した対応が可能になった。
情報が集まるハブとしてのホテルへ
同ホテルでは、旅行プランの企画・販売という新しいビジネスを展開することで、地域の観光資源に関する情報の発信拠点という新しい価値を担っていきたいと意気込んでいる。今後は、宿泊という目的に加えて、観光に関する情報が集まるハブとしての役割を果たすことを目指す。
地域ではこれまで、各観光事業者が情報発信を行ってきたが、各々が十分に連携しているとは言えない状況にあった。多くの人々が集まるホテルなら、観光を目的とする利用者のニーズに合わせて観光プランを提案したり、他の旅行業者のプランにホテルでの宿泊や食事を組み込んだりすることも考えられるだろう。観光に携わる各事業者が連携することで、地域観光の魅力を何倍にも輝かせることができるかもしれない。実際、この取り組みを開始して数年が経ったいま、他社の企画の持ち込みや観光行政の担当部署などから、さまざまな情報がおのずと集まるようになり始めている。
今後は、少しずつ新しい工夫を試しながら、一層バラエティに富んだ観光プランを提供できるよう計画している。2027年は、人気の鉄道関連プランに加えて、NHKで放送予定の大河ドラマ『逆賊の幕臣』のゆかりの地として高崎が取り上げられるのに合わせて関連ツアーを構想中だ。
さらに、中長期的には、インバウンド向けのプランの販売も視野に入れている。外国人観光客に人気のバックカントリースキーを楽しめる宿泊プランなどが実現できれば、地域の観光資源をより広い層に向けてアピールすることにもつながる。
ホテルメトロポリタン高崎による着地型観光の挑戦はこれからも続く。
取材・文/柴野 聰
(2026.10 Vol. 758)
ホテルメトロポリタン高崎(公式サイト)
https://takasaki.metropolitan.jp