第5次「観光立国推進基本計画」を読む

Interview
観光立国へ 日本ホテル協会の見方・考え方

原 信造 氏
日本ホテル協会 副会長/株式会社ホテル、ニューグランド代表取締役会長兼社長

観光立国推進基本計画の改定に際し、日本ホテル協会では「人手不足」「設備投資」「危機対策」「インバウンド地方分散」「国内旅行振興」「MICE振興」「宿泊税の旅行者負担」の7項目からなる意見書を政府に提出した。その内容を踏まえ、第5次基本計画に対する見方と観光立国実現に向けた心構えについて、原信造副会長に聞いた。

大きなシャンデリアと紫色のフラワーアレンジメントが飾られた、格調高いホテルロビー。

ホテル業界としての提言や要望を発信

──第5次基本計画をご覧になった感想を、まずお聞かせください。

観光が戦略産業として明記されたこと、ホテルを含む観光産業の労働環境改善にも触れていることなど、大いに評価しています。「観光地・観光産業の強靱化」を施策の三本柱の一つとして、宿泊業の付加価値目標額を6.8兆円という、日本のGDPの約1%強に相当する野心的な指標に設定したこともそうです。ホテル業界としても、宿泊業の収益性や生産性の向上を図って付加価値を増やし、従業員に還元していきたいですね。

──基本計画策定にあたっては、日本ホテル協会からも意見書を提出したそうですが、具体的にどのような提言や要望だったのですか?

2025年7月に行われた国土交通省交通政策審議会観光分科会において、協会としての意見書をもとに、見解を述べました。次の7項目についてです。

1番目は「人手不足」への対応についてで、今回の基本計画には、観光人材の確保を目指すと明確に記されました。観光産業の強靱化に資するDX化、省力化、投資促進、宿泊業の魅力向上、外国人材の活用なども盛り込まれています。

2番目は「設備投資」への支援です。ホテルは巨額の投資を伴う装置産業のため、改修費用などに関する税制上の措置などを求めました。

3番目はパンデミック等の「危機対策」についてです。当協会の会員ホテルにおいては、コロナ禍のわずか2年間で、それ以前の純利益の実に42年分を失うという痛烈な打撃を受けました。今回、こうした有事への備えや支援の仕組みを、基本計画に組み込んでほしいと強く訴え、災害、国際情勢、感染症等のリスクに対する強靱性の確保が、目標として明記されました。

──地方への誘客についてはどうですか?

「インバウンドの地方分散」として4番目に挙げ、大都市圏と地方のホテルの収益力の格差と、旅行者の地方分散の必要性を、我々の立場から説明しています。

5番目は「国内旅行振興」についてで、ラーケーション(学習と休暇を組み合わせた造語)、ワーケーション、二拠点居住なども含めて、国内旅行の活性化を図ろうという内容です。

6番目は「MICE振興」、すなわち国際会議や展示会イベント等の開催を振興する意義に加えて、老朽化が進む巨大なMICE施設の改修工事等には、国の後押しが必要であることも訴えました。

7番目は「宿泊税」について。宿泊税は日帰り客には課税されず、公平性を疑問視する向きもあります。深く考えずに導入して、旅行者の負担が増え、旅行の足が鈍るようではいけません。慎重に対応してもらいたいと話しました。

以上の7項目に関しては、その多くを何らかの形で今回の基本計画に反映していただくことができました。

生産性向上や情報発信など、ホテルの自助努力も必要

──インバウンドの旅行者数6000万人/消費額15兆円という2030年目標に、ホテル業界はどう対応していくべきでしょうか。

人手不足の今、IT化、ロボット導入、従業員のマルチタスク化等々で、労働生産性を高めなくては、6000万人にはとても対応できません。このことを各ホテルが意識して、デジタル化や機械化を進めていく必要があります。

魅力ある新たな観光コンテンツの開発も重要ですが、これは地域全体で、DMOなどとも協力して取り組むべき課題です。ホテルも当然、地域の一員としての役割を担っていきます。

──観光客誘致に向けて、ホテルのプロモーションや情報発信は十分でしょうか。

「うちの地方には、どうせインバウンドなど来ない」などと思ってしまう背景には、情報発信力の不足が隠れているかもしれません。情報が届かなければ、お客様はその土地の魅力を知る由もなく、旅行先として選ぶこともできないのです。

まずは自分のホテルや地域の魅力を、ネットでどんどん発信することです。今は優秀な翻訳ソフトやAIもありますから、英語に自信がなくても、あるいはお金をかけなくても、いくらでも工夫が可能です。日本ホテル協会の公式インスタグラムを利用していただくこともできます。

欧米で人気の掲示板型ソーシャルニュースサイトのRedditにも、旅行者同士がやり取りする日本の旅情報があふれています。日本を実際に訪れた人の投稿は、訪日旅行の大きな追い風になりますから、こういうものも意識して、広報戦略を考えるとよいかもしれません。

青い絨毯が敷かれた大階段と装飾的なアーチ、時計が特徴的なクラシカルな館内空間。写真:ホテルニューグランド
重厚な木製の柱とアンティーク調の椅子が並ぶ、落ち着いた雰囲気のラウンジ空間。写真:ホテルニューグランド

日本ホテル協会の公式インスタグラムではインバウンド向けに特化した会員ホテルの情報を美しい映像とともに発信している。写真:ホテルニューグランド

地域観光促進に向けた会員ホテルの活動を支援

──会員ホテルへのメッセージをお願いします。

第5次基本計画がスタートした今期、日本ホテル協会では䕃山秀一会長のリーダーシップのもと、全国の支部が柔軟に活用できる支援枠を拡充しました。地域のDMOが主催するイベントや、海外の旅行博などに参加するなど、使い道は地域の会員ホテルの自由です。ぜひ有効利用してください。

人口が減少し、市場や消費が縮小傾向にある日本において、景気浮揚効果をもたらすインバウンドの振興には、大きな意義があります。そして当協会の会員ホテルは、日本の観光産業を担う重要な一角です。そこで働く人たちも同じです。だからこそ、経営者はしっかり稼ぎ、みんなの給料を上げて、ホテルを魅力ある職場にすることが、とても大事なのです。一緒にがんばりましょう!

取材・文/田中洋子
(2026.06 Vol. 756)