ジェイアール東海ホテルズ
(名古屋マリオットアソシアホテルほか)

多様性を踏まえ、ストーリー性のある制服デザインに
名古屋マリオットアソシアホテル、ホテルアソシア豊橋、ホテルアソシア静岡をはじめ、東海エリア中心に7つのホテルを運営するジェイアール東海ホテルズでは2024年、全ホテルにおいてスタッフが着用する制服を刷新し、一部アイテムに「アール・ブリュット作品」を取り入れた。
フランス語で「生(き)の芸術」を意味するアール・ブリュットは、「正規の美術教育を受けていない人による芸術」「既存の文化や潮流に影響されない表現」などと説明される。日本では、特に「障害者による芸術表現」として捉えられている。
会社全体で制服を一新するという今回の取り組みは、同社の創業30周年事業の一環として、2022年に委員会が発足。およそ2年の準備期間を経て、2024年のお披露目に至った。
プロジェクトの企画段階で、本社の企画部職員としてユニフォーム委員会のメンバーだった加藤優羽さん(現在はホテルアソシア豊橋に勤務)に当時の経緯を伺った。
「制服リニューアルを検討する中で、機能性だけでなく、多様性など未来を見据えたデザインとして、アール・ブリュットを取り入れるというアイデアが挙がりました。単に障害のあるアーティストの作品を使用するというだけではなく、各スタッフが自ら誇りを感じられる、確固としたストーリー性を持つユニフォームというコンセプトを基に、時間をかけて具体化していきました」
アーティストへの利益還元と地域とのつながりも重視
ユニフォーム委員会では、アーティストの選定および収益還元の方法に関しても、熟議が重ねられた。
「何より重視したのは、各ホテルが立地する地域で活動するアーティストであること、そして、デザイン使用の収益がアーティスト本人に適切に還元される仕組みづくりでした。当社の企業理念は、ホテル事業を通じて地域に貢献することです。その理念に適うような取り組みでなければ意味がないと考えました」
プロジェクトを推進するにあたり、必要な知見やノウハウがなかった同社では、障害者雇用に実績のあるグループ会社ジェイアール東海ウェルにアドバイスを求めることから始めた。
その後、ジェイアール東海ウェルのコーディネートにより、アール・ブリュットのアーティストとのつながりを有し、かつデザインの企画経験が豊富な複数の事業者に協力を仰ぐことで、それぞれの地域で活動するアーティストの選定と、作家に対してきちんと利益が還元されるスキームの構築を目指した。デザインを作り上げる過程では、各ホテルのスタッフ全員から意見を集約する方法を採った。
そして、ついに新しいユニフォームが完成した。女性社員はコサージュスカーフに、男性社員はポケットチーフに、アール・ブリュット作品の意匠が取り入れられている。作品の中には、その地域のランドマークや、土地ゆかりのモチーフを描いたものもある。アーティストごとに使用する画材の種類や表現手法もバラエティに富んでいる。
例えば、ホテルアソシア豊橋では、地元の福祉病院に勤めながら絵画制作に取り組む杉山勇輔さん(YUCHIKOのペンネームで活動)の作品が選定された。描かれた題材は、特徴的なドーム型屋根を持つ豊橋市公会堂とツツジの花。優しい水色と黄色を基調とした水彩画は、見る人にさわやかな印象を与える。




各地で活躍するアーティストが参画。水上真歩さん(名古屋マリオットアソシアホテル採用デザイン〈以下同〉)、杉山勇輔さん(ホテルアソシア豊橋)、大石理央さん(ホテルアソシア静岡)の作品。
なお、新しいユニフォームを導入するにあたり、各アーティストのバックグラウンドと、作品にまつわるストーリーを共有し、すべてのスタッフが自らの言葉でそれを語れるように徹底した。
ユニフォームをコミュニケーションツールにすることで、ゲストに対しての、またはスタッフ間での話題にもなる。加えて、スタッフ各人が多様性への理解を深めるとともに、ホテルや地域への愛着を一層強めてほしいという期待も込められている。
同ホテルでは、毎年4月の発達障害啓発週間、9月のSDGs週間、12月の障害者週間に合わせて、アール・ブリュットを取り入れた制服を着用している。
自信を得て高まるスタッフの士気。新たなプロジェクトも派生
新しいユニフォームの導入後、各方面から多くの反響があった。従来よりも色鮮やかな制服デザインは、スタッフからも好意的に受け止められている。ときには、制服の変化に気付いた利用者から、デザインの由来について質問を受ける機会もあるそうだ。
また、アーティスト本人やその家族にとっても、今回の企画は大きな喜びをもって歓迎されている。
「作品を手がけたアーティストを各ホテルに招いた際、自分のデザインがユニフォームに実際に使用されている光景を目にして、ご本人とそのお母様が大いに感激してくださいました」
今回の取り組みを通じて、会社全体における多様性への認知が大きく進展するとともに、スタッフ一人ひとりにとって自身が働く地域への理解と愛着を深めるのにも役立っている。接客業に従事する立場として、より自信を持って地域の魅力を発信するための、良いきっかけになっているようだ。
制服プロジェクトから派生した、新しい取り組みも生まれている。同社が運営するホテルアソシア新横浜では、アール・ブリュット作品を室内装飾に取り入れたコンセプトルームを期間限定で設置。宿泊者には、作品を使用したコースターをプレゼントしたり、ホテルのオンラインストアで販売したりした。
今後の展開については、2026年4月3日に名古屋マリオットアソシアホテル内にオープンしたギフトショップ「クロシェ」において、水上さんと、名古屋JRゲートタワーホテル採用の伊山英吾さんのデザインによるコースターを販売予定。これからも今回生まれた縁も生かしながら、さらに別の作家とのコラボレーション、新たな商品企画やコンセプトルームの設置なども前向きに検討しているという。


ホテルアソシア新横浜ではコンセプトルームや、コースターなど関連グッズの企画も展開。
取材・文/柴野 聰
(2026.04 Vol. 755)
名古屋マリオットアソシアホテル(公式サイト)
https://www.associa.com/nma/
ホテルアソシア豊橋(公式サイト)
https://www.associa.com/tyh/
ホテルアソシア静岡(公式サイト)
https://www.associa.com/sth/