
ゲストにも広がるフードロスへの意識変化
沖縄県の石垣島にある南の美ら花ホテルミヤヒラでは、SDGs推進を目指し、大きく4つの取り組みを実施している。同ホテルの専務取締役で「美ら花グループSDGs推進委員会」の委員長を務める島尻吉勝さんは次のように語る。
「複数の取り組みを通じて、ホテルと地域が直面する社会課題の解消を目指しています。『ホテルだからこそ、できることがある』という発想が私たちの活動の原点です」
1つ目の取り組みは、フードロス問題の解消に向けて、一昨年から実施している「MOTTAINAIキャンペーン」だ。具体的には、宴会や会食の際、最初の30分間と最後の10分間に食事を楽しむための時間を設ける「3010(さんまるいちまる)運動」の実施や、余った料理の持ち帰り推奨などを行う。2025年は新しい試みとして、スタッフ側から利用者に「フードバッグをお持ちしましょうか?」と積極的に声掛けをするように努めた。最近では、リピーターの利用者が自主的に食べ残しを持ち帰るケースも見られ、フードロス削減への市民意識の向上にもつながっているようだ。
また、バイキングで食べ残しの多いメニューを変更する、必要最小限の仕入れ量にとどめるなど、調理や仕入れの段階においても、廃棄量を減らす努力を重ねている。今年度からは新しい仕入れ管理ソフトを導入し、より合理的な仕入れ、在庫管理、棚卸し、原価率計算を目指して運用の開始を予定している。ゆくゆくは、宿泊予約の人数を基に、提供メニューや消費期限などを考慮して最適な仕入れ数を算出できるようなシステムの構築を目指す。
仕入れ全体に対する廃棄量を表す廃棄率を見ると、2024年の9.8%(1日当たり40kg)から、2025年には8.8%(1日当たり38kg)と、前年比で1%の削減を達成した。利用客の総数が昨年よりも増加していることを考えると、この数値以上の効果が上がっているといえる。

2つ目は、環境保全に向けた複数の取り組みだ。具体的には、客室清掃を希望しない宿泊客に館内食事券を進呈する「客室清掃スキッププラン」、アメニティを客室ではなくフロント前に設置して利用客に必要分を取ってもらう「ゴミゼロ運動」を実施する。スキッププランには、過剰な清掃をなくすことで、洗剤、水、電力の使用量を抑え、環境負荷を減らす効果がある。現在では、全体の約52%に当たる宿泊客が同プランを利用している。
「客室清掃やアメニティの補充作業が必要最小限で済むため、スタッフの業務負荷の軽減、労働時間の短縮にも役立っています。ゆとりを持って作業にあたれるので、業務品質の向上にもつながります。進呈した食事券を利用してもらえれば、ホテル内の飲食店の売り上げも上がるという相乗効果が期待できます」(島尻さん)
加えて、ホテルが所有する無人島、カヤマ島にて、定期的なビーチクリーン活動および植栽活動も行う。周囲約2.5kmの小さな島の海岸に漂着するごみを回収するとともに、沖縄や奄美地方に自生する珍しい花、サガリバナをはじめとした植物を植える取り組みに力を入れる。島では、拾い集めたごみ(魚網やブイなどの漁具)を使ったアート作品の展示も行っていて、ゆくゆくは利用客向けの工作ワークショップなどの実施も検討している。


ひとり親家庭に夏休みの思い出を
3つ目は、社会的に弱い立場に置かれる子どもや高齢者のための事業の数々だ。沖縄県は全国的に見て離婚率が高く、人口におけるひとり親世帯の割合は、全国平均の約2倍である上、貧困率も極めて高い。同ホテルでは毎年夏休みの時期に、地元の福祉協会の協力を得ながら、ひとり親家庭を対象にした料理体験教室を開催している。
前年の寿司作りに続いて、2025年はケーキ作りを企画し、15組30名ほどの親子が参加。プロのパティシエの指導の下でケーキを作るという貴重な体験を楽しんだ。参加者からは、「夏休みにどこにも行けなかったので、親子で共に過ごす良い機会になった」といった声が聞かれた。

また、ホテルでは中学生や高校生に向けたテーブルマナー教室を年に1、2回開催している。学校を卒業して社会に出ていく子どもたちを応援する意味合いに加えて、ホテルの雰囲気に触れて興味を持ってもらうことで、就職先の候補の一つに同ホテルを加えてほしいという思惑もある。
さらに、ホテル館内の飲食店では、高齢者を対象にした「シルバー割引プラン」を長年継続して実施している。これは、高齢者の居場所づくりを企図したもの。年齢が上がるほど割引率を高く設定していて、地域の高齢者たちが集まって楽しむ機会の創出につながっている。


4つ目は、離島の子どもたちを支援する「島の子応援プロジェクト」だ。昨年は、「チキンカツカレーを食べて島の子応援プロジェクト2025」として、ホテルで提供したカレーの売り上げの全額を、石垣島および周辺の竹富島や与那国島の小・中学生、高校生の部活動などの活動費として役立ててもらった。子どもたちが成長する上で、離島で暮らすことがハンディキャップになってはならないという思いから、このプロジェクトは立ち上げられた。
毎年多くの団体から申し込みがあるが、限りのある予定支援金を適切に配分するために、各団体の子どもたちが日頃の活動報告と今後の目標について発表を行い、第三者がそれを審査するプロセスを採用している。昨年も、和やかな雰囲気の中で発表が行われ、15団体が支援対象として選ばれた。支援金は主に遠征費、用具やユニフォームの購入費などに利用される。子どもの保護者からは「地元の老舗企業の支援は、とてもありがたい。子どもにとって大きな力になる」と感謝の言葉が寄せられた。
ホテルでは今後も、同プロジェクトを継続実施する予定だ。さらに、各団体からの要望に応じて、ホテル館内での募金箱設置に協力するといった取り組みも積極的に行っているという。


2025年は11月に5回開催し、延べ727人がチキンカレーを食べて離島の子どもたちを応援した。
これからも、地域への利益還元を惜しまずに
こうした数々の取り組みの根底には、「地域と共に歩み、地域と共に成長し、地域の人々から最も信頼される企業グループであり続けたい」という企業理念がある。創業時から受け継いできたその思いが、思いがけず、昨今のSDGsの考えと合致した結果なのだという。
「目新しいことをやろうというのではなく、私たちのホテルを育てて支えてくださった地元に貢献したいという考えを愚直に形にしているだけ。その姿勢は、この先も一切変わりません」(島尻さん)
ホテル業で得た利益を地域に惜しみなく還元することで、地域の魅力と活力が高まり、結果として地域や国内外からより多くの人が集まる──。そうした好循環を生み出すために、南の美ら花ホテルミヤヒラの挑戦はこれからも続く。
取材・文/柴野 聰
(2026.04 Vol. 755)
南の美ら花ホテルミヤヒラ(公式サイト)
https://www.miyahira.co.jp/