株式会社森ビルホスピタリティコーポレーション
(グランド ハイアット 東京ほか)

「従業員の健康」にフォーカスする
グランド ハイアット 東京、アンダーズ 東京、ジャヌ東京など都内で複数のホテルを運営する株式会社森ビルホスピタリティコーポレーション。2023年から「森に根づく健康づくりプロジェクト」と題し、「健康」に関する取り組みを推進してきた。
「きっかけの一つは、コロナ禍でさまざまな課題が浮き彫りになるなかで、今後のホテルとしてのあり方を改めて真剣に考えざるを得なくなったことでした」。同社執行役員企画管理部部長(兼 健康経営推進責任者)の森田俊明さんはそう振り返る。
「社内で議論を重ねる中で見えてきたのは、これまで私たちは、ホテルとしてラグジュアリーな空間を演出するための投資は惜しまずに来たけれど、従業員の執務スペース(職場環境)においては改善の余地が大いにあるのではないか ということ。親会社の森ビル株式会社はコロナ禍前の2019年から経済産業省の『健康経営優良法人』に認定されていましたし、私たちのホテルも従業員の健康、そしてウェルネスやウェルビーイングにもっとフォーカスしていく必要があるのではないか、と考えたのです」
業態上、長時間労働・長時間拘束になりがちなホテル業界だけに、難しい面があることは分かっていた。それでも前に進めようと決めたのは、まずは従業員が心身共に健康でなければ、お客様によいサービスを提供できないという確信があったからだ。さらに「健康経営」を打ち出すことは会社としてのイメージアップにつながり、慢性的な人手不足の中での採用活動にもいい影響をもたらすはずだとも考えたという。
そこで、まずは社長をトップとする「健康経営推進委員会」を発足し、社長による健康経営宣言を発信。現状を把握して課題を明確にするための「棚卸し」から始めた。
「健康診断の受診率やストレスチェックの受検率、休職者の数とその理由……細かく見ていくと、ストレスチェックの制度はあっても受けている社員が7割強しかいない、一方でかなり有効に機能している制度もあるなど、いい点悪い点の両方でさまざまな気づきがありました。それをもとに『働くヒトの健康意識向上』『ヘルスケア・イノベーション』『チャリティ・地域活動連携』という三つの柱を立て、具体的な取り組みをスタートさせたのです」
「三つの柱」それぞれの取り組み
「働くヒトの健康意識向上」に向けては、第一線で活躍する講師を招いての従業員向けセミナーを定期的に開催。第1回は、ヨガインストラクターとしても活動するモデルのSHIHOさんを講師に、グランド ハイアット 東京の大宴会場で瞑想とヨガのイベントを開いた。同社が運営するホテルの従業員と家族、協力会社の社員にも呼びかけ、約120人が参加したという。
「今後、うちの会社ではこういうことをやっていきますよ、健康について積極的に取り組みますよということを、社内外に発信したいという思いもあってのイベントでした。その後も、メンタルヘルス、睡眠、女性特有の健康課題など幅広いテーマで開催しています」


「働くヒトの健康意識向上」を目指し、さまざまなアクティビティ・セミナーを開催。左はモデルのSHIHOさんによるヨガクラス、右は元サッカー日本代表の鈴木啓太さんによる腸活講座。
「ヘルスケア・イノベーション」では、さまざまな企業と連携し、職場のヘルスケア向上につながる多様な実証実験に参加している。例えば、2024年にはエステー株式会社と協力して、ホテルの執務スペースに業務用アロマディフューザーを設置。ストレスの軽減などをテーマに調合された香りを継続的に噴射して、リラックス効果や快適度を従業員アンケートから計測・検証するという実験を行った。
「私たちも実験を通じて『ああ、こういう取り組みは効果があるんだな』と知ることができますし、データを提供することで企業の研究を後押しすることにもなる。そこから、社会全体のヘルスケア向上にもつながっていけばと考えています」

「チャリティ・地域活動連携」では、ホテルのある虎ノ門・六本木エリアで、従業員が清掃などの地域活動に参加。また、親会社の森ビルが東京都水道局と連携して東京都奥多摩町にある「森ビルの森」で行っている、水源保全のための間伐など森づくりの活動にも従業員が家族とともに参加している。NPOが実施する「乳がん撲滅ウォーク」への参加をはじめ、従業員が実際に身体を動かしてのチャリティ活動も、長年にわたって継続中だ。

業界全体、社会全体の意識を向上させていく
こうしたさまざまな取り組みを通じて実感しているのは「社内に『健康』への意識を浸透させるのには時間を要する」ことだと森田さんは言う。
「『これをやればOK』という秘策はなくて、とにかく地道に丁寧に、呼びかけをしていくしかない。任意参加のワークショップやセミナーだけではなく、管理職研修のようにときには参加を義務づけることも重要だと感じています」
それでも、そうした地道な積み重ねを通じて、徐々にではあるが変化も見えてきている。セミナーなどへの参加率が少しずつ上がってきたことに加え、当初「7割強」だったストレスチェックの受検率や健康診断受診率は、現在では100%を達成しているという。
「離職率も改善されてきています。もちろん、給与面などの待遇向上もありましたので、健康経営だけが理由ではないでしょうが、よい影響を与えていることは間違いないと考えています」
2024年からは、森ビルホスピタリティコーポレーションとしても「健康経営優良法人」に認定。さらに2026年3月には、その中で特に優れた法人に与えられる「ホワイト500」の認定も受けた。
「ホテル業界でこの認定を得ているところはまだまだ多くありません。私たちが『トップランナー』になることで、業界全体の底上げにもつなげていきたい。同時に、自社だけで取り組みを進めるのではなく、ヘルスケア・イノベーションの取り組みのように他業種も含めた連携を広げることで発信力を強化し、社会全体の『ウェルネス』への意識を高めていけたらと考えています」
取材・文/仲藤里美
(2026.04 Vol. 755)
グランド ハイアット 東京(公式サイト)
https://www.hyatt.com/grand-hyatt/ja-JP/tyogh-grand-hyatt-tokyo
アンダーズ 東京(公式サイト)
https://www.hyatt.com/andaz/ja-JP/tyoaz-andaz-tokyo-toranomon-hills
ジャヌ東京(公式サイト)
https://www.janu.com/janu-tokyo/ja/