日本ホテル協会 第7回社会的貢献会長表彰

優秀賞
多様性の時代にいち早く対応する。
たゆまぬ進化を続ける「気づけばSDGs」

ホテルニューオータニ

庭園の滝が流れ落ちる池の向こうに、大型ホテルの建物がそびえる景観。緑に囲まれた落ち着いた外観。

「心のバリアフリー」とユニバーサルマナー検定

1990年代から、厨房排水の再利用やコンポストの設置など、環境問題を中心に独自の社会貢献活動を続けてきたホテルニューオータニ。近年は「気づけばSDGs」というテーマを掲げ、お客様に不便や違和感を感じさせることなく、「気がついたら」ホテル滞在を通じて自然とSDGsに貢献していた、という仕組みの確立を目指してきた。

その活動は、循環型エコシステムの構築から地域貢献まで幅広いが、2025年度はさらに「ダイバーシティ」と「ウェルビーイング」の領域での活動に力を注ぎ、「進化する『気づけばSDGs』」とのタイトルで優秀賞を受賞した。

「最初から今年は『ダイバーシティ』や『ウェルビーイング』をテーマにしよう、と意識していたわけではありません」。同ホテル広報課長(取材時)の片岡慎一郎さんはそう話す。「ただ、自分たちの活動の中で足りない点、強化が必要な点について話し合いながら取り組みを進めていった結果が、こうした形での『進化』だったというほうが近いと思います」。

具体的な取り組みとしては、まずバリアフリー化の推進が挙げられるだろう。新しく客室を作るときには、段差をなくし広々とスペースを取った、車椅子利用のお客様も使いやすい「ユニバーサルルーム」を基本としている。加えて、社員研修に障がいのあるお客様への接し方などの内容を取り入れ、ハード面だけではなくソフト面、意識面でのバリアフリー化にも注力。観光庁の「観光施設における心のバリアフリー認定制度」の認定も受けた。

また、この認定をきっかけにして、従業員7名がユニバーサルマナー検定2級を取得。7名の中には、お客様に直接対応するスタッフだけではなくホテルのデザイナー部門のスタッフなど多様な部署の従業員が含まれている。現場の従業員たち自身が「自分たちに何ができるか」を考え、話し合いながら進めた取り組みだという。ホテルとしても今後、さらに多くのスタッフの取得を後押ししていく考えだ。

「どんなお客様にも、直接スタッフからサービスを受ける場面だけでなく、ホテル滞在すべてにおいて滞りなく、快適に過ごしていただきたい。これは、SDGsの開発目標にある『人や国の不平等をなくそう』につながるものでもあります。そのために、社内における情報共有、コミュニケーションもいっそう活発化させていきたいと思っています」

「INCLUSION FOR INNOVATION」「MIRAIRO」のロゴを背景に、修了証を手にした参加者が並んで記念撮影している様子。
ユニバーサル対応を推進するチームを発足し、ソフト面でも対応力強化に努めている。

すべてのお客様が、安心してホテル滞在を楽しめるように

さらに、病気や障がいなどの事情を抱えるお客様にも、より安心してホテル滞在を楽しんでいただきたいとの思いから、滞在中に看護師のケアサービスを受けられる「ナーシングケアプレミアムサービス」も2025年度より開始した。

「ヘルパーや介護士にサポートを頼めるオプションサービスは以前からご用意していましたが、看護師に入ってもらえることで、一部の医療行為も可能になる。健康上の懸念から旅行に行くことをあきらめたり、親族の結婚式を欠席したりする方も少なくないという話は、以前からお聞きしていました。それに対して、病気や障がいがあっても安心してホテルで過ごしていただけるという、新しいモデルを提示できているのではないかと思っています」

体力に自信のないお客様でも、一部は家族や同行者と別行動をとり看護師のケアを受けることで、旅行や家族行事に参加することができるようになる。まだ開始したばかりのサービスだが、問い合わせの数も多く、ニーズの高さを実感しているという。

介助者が車いすの高齢女性に寄り添い、笑顔で会話している様子。
現役看護師による専門的なケアで、ホテルでの時間を安心かつ快適に過ごせる「ナーシングケアプレミアム」。

「食」の面でも、多様なお客様を受け入れるための取り組みを展開中だ。以前から取り入れていた食物アレルギーやベジタリアン対応のメニューに加え、館内の日本料理レストランで、「プラントベースフード」と呼ばれる植物由来の素材を使用した会席料理を提供している。

「同様に、植物由来の素材のみを使ったスイーツ『SATSUKIプラントベースクッキー』も販売中ですが、『動物性素材を使っていないとは思えない』と、ビーガンやベジタリアンではないお客様にも好評です。SDGs開発目標のうちのひとつ『すべての人に健康と福祉を』の達成につながる取り組みだと考えています」

和食のコース料理が並ぶテーブル。焼き物、煮物、天ぷら、寿司、茶わん蒸し、汁物、デザートまで多彩な料理が盛り付けられている。
缶に詰められた焼き菓子の詰め合わせ。様々な味のクッキーが整然と並び、その上に白やピンクの小さなメレンゲ風菓子が散りばめられている。

植物由来のプラントベースフードを使用したメニューを多彩なジャンルで展開。左は「ベジタリアン会席・ヴィーガン会席」、右は「SATSUKI プラントベースクッキー」。

また、ホテルと同じ千代田区内にある大妻女子大学のボランティアグループ「ぴーち」と連携しての取り組みも、昨年初めて実施した。ホテル内にあるバラ園「Red Rose Garden」で剪定された、これまでは廃棄処分していたバラの花を染色材料として提供。「ぴーち」のメンバーがそのバラから色素を抽出して染色したスカーフやコースターを制作し、区内で開催された「ちよだ環境フェア」に出展した。

「産官学が連携した、多くの人に環境問題を身近に感じてもらえる取り組みです。私たちのテーマである『気づけばSDGs』にも通ずる活動だと思っています」

赤いバラが一面に咲く庭園の奥に、大型ホテルの建物が広がる外観風景。
春と秋に美しい花を咲かせるRed Rose Garden。そのバラの色素を使用した作品が、学生たちの手によって生まれた。

家族団らんから国際会議まで

こうしたさまざまな取り組みの根幹にあるのは、1964年のホテルニューオータニ開業時のコンセプトである「家族団らんから国際会議まで」──あらゆるタイプのニーズに対応できるホテルでありたいという思いだという。

「最近は特に海外からのお客様が増えていますし、日本の方であっても、食への意識や生活習慣は多様化がますます進んでいます。あらゆるお客様に安心して、楽しんで過ごしていただけるホテルであるために、こうしたさまざまな取り組み一つひとつを丁寧に積み重ねていく必要があると感じています」と片岡さん。今後はさらに、外部の企業や教育機関など、多様なステークホルダーと協力しながら取り組みを進めていきたいという。

「ホテルというのは、結婚式をはじめ、お客様の人生の節目節目で使っていただける場所です。そうしてお客様一人ひとりの人生に寄り添っていく上で、環境への配慮や多様性への対応という点でも、進化を続けていかなくてはならない。それでこそ、次の世代のお客様にもご利用いただけるホテルになっていけるのではないでしょうか」

ホテルニューオータニを運営する株式会社ニュー・オータニは2025年9月、新経営体制による経営・事業戦略「Refine Otani」を発表した。60年以上にわたってお客様に愛されてきたホテルは、たゆまぬ進化を重ねながら、さらなる歴史を紡いでいく。

取材・文/仲藤里美
(2026.04 Vol. 755)

ホテルニューオータニ(公式サイト)
https://www.newotani.co.jp/tokyo/