ホテルとアートの出会い

400点以上のアート作品を展示
訪日ゲストに日本の美を伝える

パークホテル東京

客室内の壁面や天井にアーティストが直に絵筆を走らせ作品を描き上げた「アーティストルーム」では、ゲストは文字どおり、アートに囲まれて宿泊することもできる。

ホテルに居ながらにしてアート鑑賞を楽しむ

東京都港区にあるパークホテル東京では、「日本の美意識が体感できる時空間」というコンセプトのもと、アートを通じてゲストに日本の魅力を伝える独自の取り組みを展開している。

館内には常時400点以上もの作品が展示され、宿泊の有無に関わらず、ホテルを訪れたゲストが自由に作品を鑑賞できる。

メイン展示会場である25階のアトリウムでは、季節展示「アートカラーズ」として、四季の移ろいを感じさせるさまざまな趣向の企画展を定期開催。また、客室のある26〜34階では、「コリドーギャラリー」と名付けられた回廊に作品が並ぶ。フロアごとに異なる展示テーマが設けられていて、ゲストはホテルに居ながらにして美術館巡りをしている気分を味わえる。

さらに、客室内の壁面や天井にアーティストが直に絵筆を走らせ作品を描き上げた「アーティストルーム」では、ゲストは文字どおり、アートに囲まれて宿泊することもできる。

館内に展示されているアート作品を眺めると、その多彩さに驚かされる。雄大な自然の情景を描いたもの、現代のポップカルチャーを題材にしたもの、錦絵や浮世絵の手法を用いたもの……。作品のモチーフや表現技法は、きわめてバラエティに富む。平面作品以外にも、彫刻や陶器などの立体作品も扱っている。

「展示品に共通しているのは、日本のローカルアーティストによる作品であること。そして、日本特有の美意識を表現した作品であるということです」。そう語るのは、アートディレクターを務める、ブランド戦略推進課の藤川欣智さんだ。

ホテルでの滞在を通じて、ゲストに日本の文化や歴史について関心を持ってもらい、その背景にある価値について知ってほしい、そして日本をもっと好きになってほしい。アート作品を展示する取り組みは、そうした思いを形にしたものだという。

25階アトリウムの吹き抜け空間に映し出された縦長の巨大な映像作品。高層階まで連なる壁面を使い、人物像がダイナミックに表現され、アトリウム全体が展示空間となっている。
25階アトリウムのロビー全景。壁面いっぱいに女性の顔を描いた大型アートが投影され、書棚や展示台が配置された空間全体が巨大なギャラリーのように構成されている。
25階アトリウムのラウンジ空間。壁面にはカラフルな絵画が展示され、大きな窓の向こうに夕暮れの東京の景色が広がり、アートと眺望が一体となったギャラリー空間を形成している。
25階アトリウムに展示された立体作品。円形の展示台中央に青を基調としたオブジェが置かれ、背後の壁面には大型の絵画が掛けられており、空間全体がギャラリーのように演出されている。

25階のアトリウムはそれ自体が巨大なギャラリーと化しているかのようだ。

アートを中心に据えたリブランディング

パークホテル東京がリブランディングの一環として、アートを中心に据えた新たなコンセプトを打ち出したのは、創業10周年を間近に控えた2012年のことだった。

国による観光立国推進計画を背景に、訪日外国人観光客が急増していた当時、パークホテル東京でも、ゲストの5〜6割ほどを訪日外国人が占めていた。そこで、東京観光を楽しむ外国人ゲストに、より快適で印象に残る空間と時間を提供する目的で、アート作品の展示を行うという発想が生まれた。

「海外のお客様に日本の魅力をより深く理解してもらうには、言葉や映像による情報伝達だけでは不十分です。もっと感性に訴えかける手段はないかと模索する中で、アートを用いたコミュニケーションというアイデアに思い至りました。いうなれば、非言語のおもてなしです」と藤川さんは言う。

日本では古くより、四季折々で変化する自然の中に美を見出す価値観が重んじられてきた。その美意識は伝統文化や工芸、祭礼などにも共通している。自然界の事象を暮らしの中に積極的に取り込み、楽しみ慈しむ姿勢は、日本人のアイデンティティそのものであるともいえる。

千利休は、茶道の極意を尋ねられて、「夏はいかにも涼しきように、冬はいかにも暖かなるように」と答えたという。この言葉は、季節や自然を取り入れた「おもてなしの心」の本質を端的に表している。訪日外国人ゲストに、日本ならではの四季の移ろいをも感じてほしい、アート作品の展示には、そうした願いが込められている。

ゲストへのおもてなしに加えて、アート展示には、国内で活動するアーティストへの支援という別の意義もある。アーティストにとって、作品を発表する場所や機会は決して多くない。そこで、ホテル内にたくさんある壁面を発表の場として提供し、有効活用してもらおうというわけだ。

パークホテル東京の展示の大きな特徴として、一部の例外を除いた展示作品が購入できる点がある。一般的なギャラリーでは、日本人の鑑賞者が大多数で、マーケットもほぼ国内に限定される。しかし、訪日外国人ゲストの多いホテルであれば、より広く世界の鑑賞者の目に触れる機会が生まれる。自分の作品が世界に届くことは、アーティストにとって最大のチャンスだといえる。

壁一面に描かれたカラフルな壁画の中で制作作業を行うアーティスト。
壁一面に繊細な植物モチーフの壁画が描かれたアーティストルームのベッドルーム。天井から広がる立体的な装飾が印象的
鮮やかな色彩と大胆な構図で描かれたパラリンアーティストによる壁面アートが施されたアーティストルームの客室

外国人客にも好評のアーティストルーム。貴重な作品発表の場ともなっている。右下はパラリンアーティストによる壁面アート。

日本の魅力を発信することで、文化交流の拠点に

ホテルとアートを掛け合わせた取り組みについて、当初の予想を超える大きな反響があった。何よりも、日本の魅力を表現した作品に触れる絶好の機会として、外国人ゲストに歓迎されている。異国の文化に触れるために日本を訪れたゲストにとって、その結晶ともいえるアート作品との出会いは、好奇心や感性をより一層刺激するきっかけになるのだろう。

客室内の壁に直に作品が描かれたアーティストルームに宿泊したゲストからは、「世界に一つだけしかない空間で、特別な体験ができた」「観光してホテルに戻った際、自分の部屋だという安心感を得られた」といった声も聞かれる。

また、アート鑑賞を通じて、新しいコミュニケーションが生まれることもある。ゲストとスタッフ、またはゲスト同士で作品について会話をしたり、そのモチーフとなっている文化や歴史についてスタッフが説明したりと、アートには人と人の距離を縮める力が備わっている。

さらに、ホテルで働くスタッフにとっても、アーティストの豊かな創造力に触れることで、ゲストをどうおもてなしするかという発想力を養うヒントにもなっている。何より自身が特別なホテルで働いているという誇りにつながっているそうだ。

なお、アート作品の常設展示以外にも、障がいのあるアーティストが参加するパラリンアート世界大会に関連した展示や、ワインを飲みながらアート制作を体験できるワークショップの実施、現代アートに囲まれた空間での茶道体験など、アートにまつわるさまざまな取り組みやイベントも実施している。

講師の説明を受けながらキャンバスに向かって絵画制作を行う参加者たちの様子。ワインを飲みながらアート制作を体験できる。
ワインと作品制作を同時に楽しむワークショップも。

現在では、全体のおよそ9割が海外からのゲストだというパークホテル東京。「東京を訪れるならここに」という、リピーターも増えている。その事実は、ゲストが日本の文化に興味を持ち、深く共感してくれたことの何よりの証拠かもしれない。アートによる取り組みについて、藤川さんは次のように語る。

「大げさに言うと、当ホテルがアートを媒介とした文化交流の拠点の役割を果たしたいと考えています。世界の人々に、日本という国をより深く理解して好きになってもらいたい。その情報発信地になれたら本望です」

取材・文/柴野 聰
(2026.02 Vol.754)

パークホテル東京(公式サイト)
https://parkhoteltokyo.com/ja/