
ピカソ、ドガをはじめとする名画を展示
秋田市の中心部にある秋田キャッスルホテルでは、館内各所にて、国内外の有名アーティストの作品を展示している。展示作品のうち、パブロ・ピカソの油彩画『海辺のカップル』および『マンドリンと壺』、エドガー・ドガのパステル画『踊り子』は、特に芸術的価値が高く、美術館以外で鑑賞できる機会はきわめて貴重だ。
同ホテルが正式に「アートコレクション」と銘打って作品の展示を始めたのは2016年のこと。それまでも絵画の展示自体は行っていたものの、あくまでも空間演出の一環にとどまっていた。現在では8点の作品を常設展示(一部作品のみ定期的に入れ替え)している。
客室フロアと特別ラウンジに展示した作品については、宿泊者やラウンジ利用者のみ鑑賞できるが、コレクションの大半はパブリックスペースに展示されているため、宿泊の有無にかかわらず誰でも自由に目にすることができる。
ホテルにとって顔ともいえる1階正面ロビーには、ピカソの作品が通年で展示されている。巨匠ピカソの手になる作品、それもレプリカではなく原画を鑑賞できるとあって、いつでも多くの人々が足を止めて絵画に親しむ光景が見られる。アート作品を展示する取り組みについて、経営企画部の加藤いづみさんは、次のように語る。
「私たちは、『芸術、文化、歴史、自然と融合するホテル』という企業理念を掲げています。単に宿泊施設としてではなく、地域内の文化拠点でありたいという思いを、このアートコレクションに込めています。地域の皆さまが気軽に足を運び、芸術を身近に感じられる機会を提供することを目指します」


開放的なロビーを生かして巨匠の名画を展示。ホームページの「館内アートのご案内」には展示作品の場所を示した見取り図もあってわかりやすい。
アートを起点にした「特別な体験」を提供
ホテルが位置する中通地区は、「文化の回廊」という別名のとおり、さまざまな文化施設が集中するエリア。目の前には城跡を整備した都市公園と秋田県立美術館、少し歩けば秋田市立千秋美術館があるほか、音楽ホールや劇場なども点在している。同ホテルはそんな文化的地域の一つのシンボルとして長年、魅力ある街づくりに積極的に取り組んできた。
「街を活気づけるには、一つひとつのスポットが点として存在するだけでは不十分です。訪れた人々が各スポット間を歩いて回りたくなるような回遊性がなければ、賑わいは生まれません。私たちは地域を代表するホテルとして、それぞれの点と点を結ぶ線の役割を果たしたいと考えています」(加藤さん)
同ホテルではアートを中心に据えたさまざまな企画や催しにも力を注ぐ。ドガの作品を展示するラウンジでは、名画に着想を得た特別メニューを楽しめるランチおよびディナーコースを提供。利用客からは「特別な体験ができた」と喜ばれている。

回遊性を意識した取り組みは館内での催しに留まらず、アートの鑑賞と宿泊をセットにしたツアープランの造成にもつながった。先ごろ実現したこの新しいツアーは旅行代理店とのコラボレーションによるもので、芸術に関心のある層をターゲットに、県内の美術館や文化的スポットを巡るというプラン。その目玉として、館内の展示作品の鑑賞ツアーが組み込まれている。新しい需要を呼び起こすうえでも、アートコレクションがひと役買っているようだ。
加えて、同エリアにある他施設とのコラボ企画も数多い。ホテル内にある直営レストランでは、市立千秋美術館で開催された「英国キュー王立植物園 おいしいボタニカル・アート展」の開催期間中、展示品である18世紀英国貴族のレシピ帖をもとにしたアフタヌーンティーセットを提供した。県立美術館で開催された「巨匠たちのパレット展」と題された企画展でも、絵画のパレットに見立てた特別なランチメニューを用意した。また、近隣のホールにてレオナール・フジタこと藤田嗣治の生涯を描いたミュージカルが上演された際には、藤田作品に特徴的な乳白色をイメージしたソースのかかったランチメニューを提供した。いずれも、芸術鑑賞とセットで優雅なひとときを楽しむことができると、利用客からも歓迎されているという。


こうした取り組みは、徐々に地域内の他の事業者にも波及し、現在はホテル以外の店舗でも同様の企画が多く見られるようになった。地域全体がアートを通じて連携し合うことで、街を訪れる人に特別な体験を提供する。まさに、点と点を線で結ぶようにして、地域に回遊性と賑わいが生まれている。
地域が連携して、新たな観光資源を創出する
「文化の交流拠点でありたい」という秋田キャッスルホテルの理念は、この他にも多くの取り組みとして結実している。その一つに利用客をおもてなしするためのロビーの装飾がある。開放感のある1階正面ロビーでは、季節ごとにさまざまな装飾を施して訪れる人々の目を楽しませている。例えば、クリスマスには定番のツリーが飾られるが、同ホテルの装飾には、他のホテルにはない工夫と独自性が光っている。
2022年から2024年にかけてのクリスマスシーズンには、SDGsをテーマに据えて、地域の特産材である秋田杉の廃材からつくったツリーやオーナメントの展示を行った。プラスチック製の飾りにはない温かみと、清々しい杉の香りが好評だったという。地域の幼稚園児による合唱が行われたり、高校生が書道パフォーマンスを披露したりと、ロビーはいつでも人々の活気にあふれている。他にも、フラワーアレンジメントやスイーツづくりのワークショップ、ワインセミナーなど、趣向を凝らしたさまざまなイベントが行われている。



秋田杉廃材を生かしたクリスマス装飾からの展開で地域参加型イベントも。誰でも参加できる「みんなでつくるクリスマスツリー」などを実施している。
このように、文化活動を含めた幅広い意味での「アート」を通じて、ホテルを拠点に人々の交流やつながりが生まれ、その結果として地域の魅力アップにもつながっている。
加藤さんは今後の展望について、「引き続き、街全体が盛り上がるような企画やイベントの実施を通して、地域の賑わいと、新しい観光資源の創出を目指してまいります。自社だけでなく、地域の皆さまと力を合わせて取り組むことで、県外や海外から、より多くの方々を秋田に呼び込む力になるはずです」と語る。
取材・文/柴野 聰
(2026.02 Vol.754)
秋田キャッスルホテル(公式サイト)
https://www.castle-hotel.jp