いま注目のペットツーリズム最前線

ホテルに広がる新トレンド ペットと旅する時代へ

旅先選びの基準は「愛犬と一緒に行けるか」

コロナ禍以降、人々のライフスタイルは大きく変化し、新たな消費傾向が次々と生まれている。「ペットと旅をする」というニーズも、その一つだ。英国の市場調査会社によると、アジア太平洋地域に住むペットオーナーの68%が「ペットとの特別な旅行体験を求めている」という。日本においても、「愛犬を旅行に連れて行きたい」という愛犬家は96.3%、旅先を選ぶ際に「愛犬を連れて行けるかどうかを考慮する」と答えた人は95.8%に上る(ココグルメ調査)。ペットはもはや「家族の一員」という意識が広く浸透していることがわかる。

その一方で、現在、国内の宿泊施設でペット同伴を受け入れている割合は、わずか6%程度にとどまる。高まる需要に対して供給が追いついていない状況で、ここに、ホテル業界にとって大きなビジネスチャンスがある。

家族の一員であるペットとの旅行ニーズが高まっている。
家族の一員であるペットとの旅行ニーズが高まっている。

市場規模に目を向けると、日本のペット関連市場は2024年に1兆9000億円に達し、インバウンド市場に匹敵する規模となっている(矢野経済研究所)。犬と猫を合わせた飼育頭数はおよそ1595万頭で、15歳未満の子どもの数を上回る(一般社団法人ペットフード協会)。ペットを飼う世帯数は、いまや子育て世帯に迫る勢いだ。

さらに、注目すべきは、ペット連れ旅行者の高い消費力だ。JTBによると、ペット同伴旅行者の中心は30〜60代の女性で、宿泊単価は1人当たり平均2万円以上と、一般旅行客よりも高い傾向にある。ペット対応を進めた結果、客室稼働率や年間売上が大幅に伸びた宿泊施設も少なくないという。

展示会でも注目が集まるペットツーリズム

こうした市場の熱気を受けて、2025年7月にインテックス大阪で開催された「ホテル・レストラン・ショー&FOODEX JAPAN in 関西」では、ペットツーリズムに関するゾーンが設けられ、大きな注目を集めた。

多くの人で賑わった「ペットツーリズム」ゾーン。宿泊施設に必要な製品やサービスを取り扱う12社が出展した。
多くの人で賑わった「ペットツーリズム」ゾーン。宿泊施設に必要な製品やサービスを取り扱う12社が出展した。

会場には「ペットと泊まれる宿のモデルルーム」が登場し、滑らない床材や消臭効果のある壁紙、汚れが落としやすいカーペット、さらにはペット用の食器やおやつなど、最新の設備やアメニティが展示された。出展企業に話を聞くと、「ペットツーリズムの拡大を受けて、これまで他業種に提供してきた商品やサービスを、ホテルをはじめ宿泊施設向けに展開する機会が増えている」とのこと。展示会では、ペットツーリズムに関するセミナーも開催。ペット受け入れ施設へのコンサルティングを行う株式会社トラベルウィズドッグの代表取締役社長・中村貴徳氏がモデレーターとなり、リゾートホテルや一棟貸しヴィラなどの事例をもとに、ペット受け入れによる収益向上や差別化戦略について考察。会場では、多くのホテル関係者が熱心に耳を傾けていた。

ペットとの旅行を楽しめる宿のモデルルームを公開。
ペット用の家具や食器、除菌消臭スプレーなどが展示された。2026年2月に東京ビッグサイトで開催される「国際ホテル・レストラン・ショー」でも、ペットツーリズムをテーマにした展示会が行われる予定。

ペットとの旅行を楽しめる宿のモデルルームを公開。ペット用の家具や食器、除菌消臭スプレーなどが展示された。2026年2月に東京ビッグサイトで開催される「国際ホテル・レストラン・ショー」でも、ペットツーリズムをテーマにした展示会が行われる予定。

ペットと飼い主を受け入れることは、単なる差別化にとどまらない。新たな顧客層を呼び込み、リピーターを育て、収益を拡大する有効な手段となり得る。さらにSNSを通じた口コミ効果の高さも見逃せない。飼い主たちは、ペットとの旅行の様子を写真や動画で日常的に発信しており、「ペットと一緒に泊まれる」「快適に過ごせる」といった情報が広がることで、同じようなニーズを持つ潜在顧客に自然に届くのだ。ホテル経営における成長戦略として、ペットツーリズムはもはや見逃せない重要なトレンドと言えそうだ。

取材・文/編集部
(2025 7/8/9 Vol. 752)