
サービスの品質を保ちながら食品ロス削減に挑む
2019年に「SDGs宣言」を掲げ、早くから持続可能な地域社会の実現に向けて取り組んできたSHIROYAMA HOTEL kagoshima。その功績は日本ホテル協会が主催する「社会的貢献に対する会長表彰」で優秀賞を4年連続で受賞するなど、高く評価されている。同ホテルが喫緊の課題の一つとして捉えているのが食品ロス削減の問題だ。
「ホテルは非日常のラグジュアリーな体験を提供しますが、一方で、そこには無駄が発生する可能性が高いことも事実です。サービスの品質を落とさずに課題を解決する方法はないか、手探りの状態から始めて、少しずつ取り組みの内容を拡大しているところです」
こう話すのは、企画広報部部長の安川あかねさんだ。まずは食べ残しを削減するために、農林水産省が推奨する食品ロス削減国民運動「ろすのん」をバイキングレストランやビュッフェ形式のイベントで推進。一度にたくさんの料理を取るのではなく、少しずつ何度も取りに来てほしいというメッセージを、POPなどを活用して発信している。宴会や婚礼では環境省が推奨する「3010運動」を展開。乾杯後の30分間と終了の10分前は席に戻って料理を楽しもうという呼びかけだ。宴会ではみんなが挨拶回りをしている中で、自分だけ食事をするわけにはいかないという人も多かったようで、3010運動は多くのお客様に受け入れられ、実際に効果も非常に高いという。
食べきりを促す「3010運動」。ポスターやテーブルの卓上POPで運動の趣旨を啓蒙している。
お客様から好評を得ているmottECO活動
SHIROYAMA HOTEL kagoshimaの食品ロス削減の取り組みが、さらに本格化したのは2023年、東京を中心に活動する「mottECO普及コンソーシアム」に参画したことが契機となった。
「食品ロス削減のための特効薬はなく、さまざまな活動を複合的に行っていく必要があると思っています。ろすのんや3010運動のほか生ごみ削減機の導入など複数の取り組みを進めてきましたが、ここはもう一歩踏み込んで、持ち帰りについても検討する余地があるのではないかと考えるようになったのです」(安川さん)
もちろん、持ち帰りにはさまざまなリスクが伴う。特に料理人にとっては大きな決断が必要となる問題だ。そこで、mottECOの普及に先進的に取り組んでいるホテルメトロポリタン エドモントの特別顧問で統括名誉総料理長の中村勝宏さんと取締役総支配人の松田秀明さん(取材時/現 日本ホテル株式会社顧問)に協力を仰ぎ、オンラインで勉強会を開催してもらうことになった。
「中村シェフはご出身が鹿児島で、私たちにとっては大先輩に当たります。そんなご縁もあって、ホテルにおける持ち帰りの実情についてお話を伺う機会をいただきました。成功事例を知るにつれて、できないと初めから決めつけるのではなく、できることから始めてみようという前向きな気持ちに変化していきました」。そう安川さんは振り返る。
まずは、都内で開催されたmottECOの普及イベントに出展し、食品のアップサイクルなどこれまで行ってきた食品ロスや環境への取り組みを紹介。これを機に、さらに食品ロス削減の施策を加速させようという意識が高まり、社内討論会を重ねた結果、2023年11月にトライアルでmottECOをスタートすることになったのだ。
実際に宴会で導入したところ、お客様の評判は上々だったという。宴会に出席した人からは「食事が残っているのを見て、いつももったいないと思っていた」「家族から、自分だけSHIROYAMA HOTEL kagoshimaの食事が食べられていいなと言われたので、少しでもお土産に持ち帰ることができてよかった」などの声が寄せられ、好意的に受け入れられている。mottECOはあくまでも「自己責任で」食べ残しを持ち帰る行為を指すが、宴会後のアンケートでは、100%のお客様が自己責任であることを理解してくれたという。
外部の団体が主催する宴席でmottECOを取り入れる場合は、主催者に賛同してもらい、容器を購入してもらうことになる。そのため、普及活動には苦労が伴うのも事実だが、同ホテルでは「城山の宴会場で、イベントを通じて社会貢献ができる」と謳い、積極的に賛同を呼びかけている。mottECOや3010運動だけでなく、通常のコーヒーをフェアトレードのコーヒーに、ペットボトルの水を紙パックの水に変えるなど、イベントの趣旨に合わせた社会貢献が可能だ。
「私たちは地域の方々のおかげで企業活動ができていると思っています。よく自分たちのことを『土着のホテル』と呼んでいるのですが、土着のプライドを胸に、社会的な責任をしっかり果たしながら、お客様に非日常を提供していく。その両輪であり続けたいと強く願っています」(安川さん)


食べ残しは、mottECOの専用容器にお客様自身で入れて持ち帰ってもらう。
同ホテルの食品ロス削減のための取り組みは、他にも数多くある。例えば、食品残渣を堆肥化して地元の農業法人に提供し、そこで育った野菜を食材として活用する。消費期限の近づいたパンは冷凍保存し、鹿児島県内の子ども食堂に無償で提供。鹿児島市が推進するフードシェアリングサービス「かごしまタベスケ」にも参画し、売れ残りそうな食品を出品している。
「ありがたいことに、自治体や組合の皆さんから『城山さんが参画すると他の飲食店にもいい影響が広がる』とおっしゃっていただいて。地元の食品ロス削減のシンポジウムなどに呼んでいただくことも多くなりました。私たちの活動をお伝えすることで、少しでも地域の皆さんの気づきにつながればうれしいと思っているんです」と安川さん。ゆくゆくは、地元のさまざまな企業と協働し、食品ロスの問題に取り組むための勉強会やイベントなどを開催したいと意気込む。「土着のホテル」として、SHIROYAMA HOTEL kagoshimaはこれからも地域を力強く牽引していく。
取材・文/編集部
(2025 4/5/6 Vol. 751)
SHIROYAMA HOTEL kagoshima(公式サイト)
https://www.shiroyama-g.co.jp