2026年2月17日、第18回「Hotel-Women Forum 2026」が、東京ビッグサイトで開催された。第一部は大山みこ氏(日本経済団体連合会ソーシャル・コミュニケーション本部副本部長/国際イメージコンサルティング・オフィス「CATCHY」代表)による講演、第二部では5名のホテルウーマンを迎えてワークショップが行われた。

第一部:講演
自分らしく、カラフルに生きる。~多様性をチカラに成長する社会へ~
大山みこ氏
強くしなやかな社会をつくるDEI
日本経済が持続的な成長を遂げるための鍵は、多様な人材がその能力を最大限に発揮できる土壌、つまり「DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)」の確立にあると大山みこさんは語る。経団連でダイバーシティ政策をけん引する立場から、DEIを軸に、女性のエンパワーメントの視点も交えて、日本の立ち位置や企業の問題意識について紹介した。
世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」では、日本は148カ国中118位(2025年)と低迷している。特に経済・政治分野で、日本女性の出遅れは顕著だ。これは「エクイティ(公平性)」の問題ともリンクする。
全員に同じ高さの台を提供することが「平等(Equality)」だとすると、「公平(Equity)」であるためには、一人ひとりの状況やニーズに合った支援を行う必要がある。産休・育休中の社員がスムーズに復帰できるよう、休暇中にオンライン研修を提供するような取り組みはその好例といえるだろう。社会進出において、もし女性が不公平な立場に置かれているとしたら、その不公平を解消する仕組みが求められるのである。
もちろん、DEIは女性だけでなく、あらゆる人、企業においては、あらゆる社員にとって大切な概念だ。
「DEIは企業のレジリエンス(回復力)を高める経営戦略でもあります。多様な人を包摂し、多様な視点を持つことが、日常的なイノベーションを生み、結果的に企業を強くしなやかにしてくれるのです」
一方、自分自身が感じる幸せ、充足感、自信(自己肯定感)など、日本人の「主観的ウェルビーイング」の低さについても、大山さんは警鐘を鳴らす。健康、経済、教育、社会環境、生活環境など、「客観的ウェルビーイング」では世界トップレベルにありながら、日々の充実度や将来への希望が、年々落ち込んでいるのだ。これを打破するためには、社会や組織が個人の精神的な豊かさを尊重し、寄り添う必要がある。女性活躍においても同様だ。
経団連では2030年までに、女性役員比率30%という目標を掲げている。
「女性は上司や同僚から強みを認められることで、初めて『やってみよう!』と昇進意欲が湧く傾向があります。日本の女性は自己評価を低く見積もりがちですから、いかに成功体験を重ね、自信を持ってもらうかが重要です」
社会制度の面では「選択的夫婦別姓制度」の導入を通し、キャリアを積んだ女性が改姓による不利益を被らないようにしたいとのことだ。

日本経済団体連合会 ソーシャル・コミュニケーション本部副本部長
国際イメージコンサルティング・オフィス「CATCHY」代表
「最高の自分」を演出する印象戦略
続いて後半では、自身の副業であるイメージコンサルティングの観点から、パーソナル・ブランディングについて話を進めた。
「日本にも、個性豊かで素晴らしい経営者はたくさんおられる。でも、その魅力が海外の投資家をはじめ外から見えにくく、顔の見えない日本人と評価されてしまうのではもったいない。人間的魅力=人に与えるイメージが、手に入れたい成果や業績を左右する時代であり、印象戦略をプロデュースしたいと考えたのが、イメージコンサルティングを始めた原点です」
そう語る大山さん自身、留学や海外駐在経験を通じて、非言語情報がいかに個人の魅力を伝えるうえで重要かを痛感し、国際イメージコンサルタント資格を取得したという経緯がある。
ビジネスの世界では、相手と出会って最初の2分から4分で、交渉の成否がほぼ決まるという。ホテルなら、エントランスやフロントの第一印象がまず大きい。何かの拍子にチラリと視界に入ったバックオフィスの様子や、ホテルの品格が如実に表れる「お化粧室」の美観など、ゲストの厳しい視線は細部にまで及んでいることも、忘れずにいたい。
加えて、お客様を迎えるスタッフの表情や声のトーンは、ホテル全体の印象を決定づける。明るい笑顔や細やかな気遣いは欠かせないし、もちろん服装や身のこなしも重要だ。
ホテル業界における「プロフェッショナルな身だしなみ」について、大山さんは「清潔感」「上品さ」「サイズ感」の3点を強調する。特に制服を着用する場合、個人の体型に合わせた微調整(裾上げや身幅の調整)に投資することが、従業員の自信につながり、顧客に安心感を与えることになる。
内面についてはどうだろうか。大山さんは最後に、これからの時代は一つの専門性だけでなく、複数の強みを持つべきだと語った。強みが掛け算となり、その人を「唯一無二」の存在に引き上げるからだ。
「終身雇用が当たり前ではなくなった今、自分の市場価値を高く維持したいのなら、組織に依存しない生き方をしましょう。そのためにぜひ自分の強みを自問し、それを増やして、自分らしさを追求してください」
キャリアとライフは、もはや天秤にかけるものではない。どちらも堂々と求めてよいものだ。もしあなたが日々の業務の中で、「もやもや」を抱えているとしたら、小さな問題意識を飲み込まず、言語化して周りと話してみよう。その勇気が、自分自身も組織もアップデートしていく――大山さんはそう言葉を結んだ。
第二部:パネルディスカッション・ワークショップ
ホテルの現場から考える「多様性」とは?
第二部では、モデレーターの阿部マリ子さん(Spice up Weddings代表)が用意した質問をもとに、ホテルの管理職である5人がそれぞれの経験を語った。
【パネリスト】

帝国ホテル東京
総支配人室 顧客マーケティング課長
白井あや香さん

京王プラザホテル
料飲宴会部 宴会サービス副支配人
武井真理子さん

湯本富士屋ホテル
営業部 宿泊課長
田村清子さん

名鉄グランドホテル
執行役員 マーケティング&セールス部長
相京正子さん

川越プリンスホテル
支配人
津田のぞみさん
【モデレーター】

Spice up Weddings
代表
阿部マリ子さん
Q1 ここ数年を振り返って、うまくいっていることは何ですか?
津田(川越プリンスホテル) 今年は開業35周年。アイデア出しが順調で、記念イベントの企画も楽しみにしています。
相京(名鉄グランドホテル) グループ全体でSDGsの意識が浸透しました。「次のフードドライブ※はいつ?」といった声も、現場から上がっています。
※フードドライブ:家庭や企業で余った食品などを回収し、地域の福祉施設や学校、各種支援団体などに寄付する活動。
武井(京王プラザホテル) 当ホテルでもSDGsが定着し、取り組みをもっと推進したいという熱を感じます。昨年は日本環境協会のエコマークアワードで、業界初の最優秀賞を受賞したことも追い風です。
田村(湯本富士屋ホテル) 個人的には、目の前のことに追われるばかりだったのが、新しい指導方法など、大局的に考える余裕が持てるようになりました。部下との面談にも時間を振り向けることができ、組織にとってもプラスになっています。
白井(帝国ホテル) 私の目標は、社員が生き生きと働ける職場づくりです。一人ひとりと望ましい働き方や生き方について話し合い、「チームと顧客の価値観に寄り添おう」というスローガンをつくりました。互いを尊重し合える職場を目指しています。
Q2 うまくいっていないことや課題はありますか?
武井 京王プラザホテルでは、社員構成が大きく変化しています。男性はベテランが多く、女性は約半数が20代。ワークライフバランスの「ライフ」を大切にする人が増えています。宴会部門では、一度に30人、50人もの外国人スタッフが、一つの宴席で働くこともあり、コミュニケーションの難しさを感じています。
田村 シニアスタッフへの関わり方も課題です。長年の実績がある方たちに対して、こちらの意図を単刀直入に伝えきれないことがあります。
津田 50代の上司が20代の部下への指示や注意に躊躇したり、とまどったりすることがあります。若手のほうも、「成長したいので遠慮なく注意してほしい」という人もいれば、「職場長に注意されると委縮してしまう」という人もいて、対話でその差を埋めていますが、難しさを感じています。
白井 若手社員から、「会社に来た瞬間から帰りたいと思う」と言われて価値観の違いに驚いたことがあります。本音を率直に話してくれる関係性が築けていて、よかったと捉えています。そうしたスタッフも含め、みんなが楽しんで働ける環境・方法をともに模索しています。
相京 名鉄ホテルグループには、女性活躍推進委員会があるのですが、管理職を志す女性がまだまだ少なく、課題だと感じています。
Q3 会社や個人で取り組んでいる、新しいチャレンジはありますか?
白井 帝国ホテルでは、今年3月に京都にオープンするホテルの総支配人に女性が抜擢されました。自らキャリアをつかみ取る女性のチャレンジを応援しています。
津田 特産のいちごを使った和風アフタヌーンティーが、埼玉いちごスイーツグランプリの「ストーリー&アイデア賞」を受賞しました。入社2年目の若手のチャレンジです。ホテルとしては、川越を訪れる方々に1泊してもらえるよう、朝や夜も楽しめる魅力の開発に力を入れています。
相京 「女性」という枠にこだわらず、すべてのスタッフのウェルビーイング実現を目指しています。
武井 職場の業務改善に取り組んでいるところです。みんなに当事者意識を持ってほしいので、周囲を巻き込んで一緒に考えるようにしています。
田村 私のチャレンジは、業務の効率化と、人を縛らない仕組みづくりです。客室金庫のシリンダーキーをデジタル化して、鍵の受け渡しや管理にかかる手間、スタッフの精神的な負担を減らしたいと考えております。

Q4 ダイバーシティの観点から見直した制度やルールは?
武井 京王プラザホテルでは、女性の制服にパンツスタイルを導入しました。これからは女性管理職も増えていくと思いますので、管理職用のディレクタースーツにも、女性仕様を展開します。
相京 名鉄グランドホテルでも、身だしなみのルールを、すべて男女共通に改定しました。安全面、清潔感に加え、お客様や一緒に働くスタッフにも不愉快な印象を与えない、といったことが重要なのは変わりません。特に混乱もなく受け入れられています。
Q5 社内での女性の活躍を推進する取り組みは?
白井 帝国ホテルでは女性管理職比率20%を目指しており、2025年4月時点で、19.4%まで実現できました。男性の育休取得率は、現在82.6%。子どもが生まれる部下には、上司が育休取得を促し、取得しない場合は理由を報告させるなど、組織全体で取得を後押ししています。併せて、「育児休業取得応援金」を支給し、経済的な不安を感じさせない手厚い仕組みも整えています。
田村 富士屋ホテルでも新しい人事制度が始まって、勤続年数に関わらず、能力と意欲があれば昇進できるようになりました。
津田 「SEIBU Women’s College」というキャリアアップ研修で、「いろんなタイプの管理職がいていい、だからあなたも大丈夫」と、女性たちに伝えています。また、アシスタントマネージャーから支配人というように、「飛び級」で昇進に挑戦できる「チャレンジ制度(公募制による早期登用制度)」も用意しています。
Q6 さまざまな経験を経て、あなたが今もホテルで働き続ける理由は?
最後のこの質問には、全員が異口同音に次のように答えた。
「さまざまな機会をくれた上司や、よき仲間に恵まれたから」「お客様の幸せをお手伝いする仕事が大好きだから」
そして、「後輩たちが活躍できる環境づくりに、今度は私たちが力を尽くしていく」という力強いメッセージが、会場に集まったすべてのホテルウーマンに送られた。




取材・文/田中洋子 撮影/島崎信一
(2026.04 Vol. 755)