EXPO2025を契機に拓く インバウンド拡大への道 〜関西を起点に全国への誘客を〜

EXPOから関西一円へ
広域連携DMOが仕掛けるインバウンド拡大策
〜関西観光本部が進める「万博プラス関西観光推進事業」〜

「大阪・関西万博」の名が表すように、EXPOを起点に福井、三重、鳥取、徳島までも含めた関西周遊圏へとインバウンドの波を拡大する。その使命を帯びて動き始めた広域連携DMO「関西観光本部」。4つの方向から観光振興を促す「万博プラス関西観光推進事業」について話を聞いた。

インバウンド戦略に都道府県が単独で取り組んでも、効果が限定されやすい。しかし近隣自治体がまとまり、「エリア」としての特色を打ち出せば、日本観光の魅力的なデスティネーションであることを、インパクトをもって海外にアピールできる。エリア全体におよぶ、広域周遊の可能性を広げることもできる。

そのとき中心となって活動するのが、DMO(Destination Management / Marketing Organization)と呼ばれる「観光地域づくり法人」である。DMOには、単独市町村によるものから、複数の都道府県にまたがるものまでがあり、現在339団体(観光庁 2023年9月27日時点)が登録している。

関西では「大阪・関西万博」に向け、一般財団法人関西観光本部が動き始めた。

関西エリア全体で外国人観光客をプロモート

関西観光本部は、関西2府8県で構成される「広域連携DMO」である。設立は2017年。福井、三重、鳥取、徳島までを含む広いブロックに、8つの周遊ルートを設定するほか、食やサステナブルなどのテーマに沿った旅行商品やコンテンツの開発を行い、関西旅行の魅力を広く知らしめる役割を担ってきた。

万博を来年春に控えた今は、海外からの来場者350万人を、いかに会場から関西一円へと送り出せるかがポイントだ。

「万博のついでに旅行するといっても、日本人客ならせいぜい大阪・京都どまり。広範囲に動く可能性は、インバウンド客が圧倒的に高いわけです。大阪・京都から東京へというゴールデンルートは人気ですが、今回は万博を機に、もっと関西の魅力を知ってもらい、一日でも長く、関西を周遊していただきたいと考えています」

そう語る奥野嘉啓室長(総合企画室 兼 EXPO2025関西観光推進協議会事務局)に、広域連携で地域をプロモートするメリットを聞いた。

それによると、まだ海外に知られていない観光スポットも、聞き馴染みのある都市と同じ「エリア」にあると伝えることで、次の日本旅行の訪問先として、俄然、現実味が出てくるようだ。

「例えば、福井県の永平寺という格式高い禅寺では、本物の禅体験ができると話すと、外国の方はとても興味を持ってくれます。ただし、福井県が日本のどこにあるのかは、あまりご存じない。福井は京都の隣の県で、万博が開かれる大阪からは、列車でおよそ1時間半だと聞いて、初めて『そんなに近いなら、ぜひ行ってみたい!』となるのです」

新しい旅行商品100件の開発を目指して

2023年3月、「EXPO2025関西観光推進協議会」が設立された。14の府県・政令市に加え、鉄道、航空、旅行会社などおよそ40団体が参加し、関西観光本部が事務局を務める。万博協会や政府機関のオブザーバー参加も得て、万博をトリガーとする観光促進に、「ONE関西」となって臨む体制を整え、2023年度から2025年度の3カ年を実施期間として、以下の「万博プラス関西観光推進事業」を推進している。

【1】新しい旅行商品・コンテンツの造成
万博を訪れた旅行客が、その足で関西旅行を楽しめるよう、日帰りから宿泊型、周遊型、長期滞在型まで、100商品を目標に、魅力的な旅行商品を新たにつくる。

【2】プロモーション、および、さまざまなチャンネルでの販売促進
海外の旅行博、現地旅行社やOTA、オフィシャルサイトを通じた旅行者への発信などを通して、旅行商品の幅広いプロモーションや販売を行う。

【3】旅ナカ・サポート
観光案内所や通訳案内士との連携、関西の観光情報やマップの提供、災害などに備えた的確な情報提供など、安心・安全な旅のためのサポート体制を構築する。

【4】関西広域観光情報ゲートウェイの構築
関西観光本部の公式サイト“The KANSAI Guide”の機能を強化・充実させ、これをハブに、ユーザーがワンストップで必要な情報にアクセスできる、Webゲートウェイをつくる。

事業の要となる「旅行商品・コンテンツ」の開発にあたっては、“The Origin of Japan, KANSAI”をキャッチフレーズに、「日本の歴史や文化の原点としての関西の魅力を、積極的に打ち出していく」と奥野氏。

「古代『難波(なにわ)宮』や『四天王寺』から始まる大阪の歴史は深く、熊野古道は平安時代頃から、皇族も歩いたといわれています。お茶の文化は堺の千利休に始まり、京都の伝統のひとつとして根づいています。関西にはとにかく歴史的資産が多い。

加えて“地の利”も関西の強みです。観光でも食でも温泉でも、産業遺産や自然の美でも、1泊2日ほどで堪能できるところが、エリア内にたくさんあるのです」

体験型のアクティビティから、外国の視察団にも対応できる産業観光まで、幅広い分野でバラエティ豊かにそろえることも、多様な旅行者を取り込むためには重要だ。こうしたことを念頭に集めた旅のコンテンツは、旅行会社を通して商品化されつつある。

ロサンゼルスで開催される全米最大規模の旅行博「Los Angeles Travel & Adventure Show(LATAS)」にもブースを出展、関西の魅力発信に努めている。写真提供:関西観光本部

ホテルとも連携し、継続的なインバウンド拡大を推進

訪日外国人数はコロナ前を上回るまでに回復し、海外の旅行博でも、大阪・関西万博や日本への人々の関心は高い。奥野氏は手ごたえを感じている。

その手ごたえをより確かなものとするために、ホテルとの連携にも注力していくとのこと。「ホテルそのものが重要な旅の要素であり、訪れる街を選ぶ理由にもなる」との言葉が印象的だ。大阪・関西万博は、ホテルビジネスにとっても、成長のスプリングボードたりうる可能性を秘めている。

関西観光本部では、EXPO2025関西観光推進協議会を通じて、すでにホテルのコンシェルジュ向けのセミナーなどを実施。今後、関西観光の情報キットを作成する予定で、ホテルでも活用いただきたいとしている。

今回開発する関西旅行の100商品を、万博後も大いに活用し、インバウンド観光を継続的に拡大していきたいとの思いは、関西2府8県に共通している。

「関西は盛り上がっています。温度感が高いです」と奧野氏。海外の旅行博などにも各県の担当者が出向き、積極的にプロモーションに当たっていると語る。

「外国のお客様がどんなことに興味があるのか、直接話せばよくわかりますし、何よりも、関西という大きな括りで話したほうが、プロモーションしやすいという実感が得られるのです」

広域連携DMOとして活動する意味は、まさにそこにある。万博の成功とともに、関西全体のインバウンド観光が飛躍することに期待したい。

取材・文/田中洋子