EXPO2025を契機に拓く インバウンド拡大への道 〜関西を起点に全国への誘客を〜

大阪・関西万博で加速する
観光立国へのプロモーション
〜ホテルに期待する観光ポータル
サイトの活用〜

2025年4月に始まる「大阪・関西万博」に照準を合わせ、万博を訪れる観光客を関西圏以外の地域まで誘うための取り組みが始まっている。メインとなるターゲットは、万博開催期間中に350万人の来場を見込むインバウンド旅行客だ。鍵となる観光ポータルサイト事業に歩調を合わせ、ホテルにできることはあるか。万博の全体像とともにお伝えする。

万博会場となる夢洲(大阪市臨海部)/提供:2025年日本国際博覧会協会

「いのち輝く未来社会」の共創を目指す国家プロジェクト

2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)の開催まで、残すところあと1年。参加国の集まり具合やパビリオン着工の遅れなどを危ぶむ声もありながら、来年4月の開幕に向け、準備も軌道に乗りつつあるようだ。公益社団法人2025年日本国際博覧会協会(以下、博覧会協会)によれば、昨年11月の時点で160の国と地域が公式に参加を表明。目標とされた150カ国・地域をすでに上回っているという。

「万博というと、割と頻繁にどこかの国で開催される印象があるかもしれませんが、実は『登録博』と呼ばれる博覧会は5年に一度だけ。前回はコロナ禍で1年遅れの2021年に開催されたドバイ万博で、日本では大阪万博(1970年)、愛・地球博(2005年)に続いて、今回が三度目です。沖縄海洋博(1975年)やつくば万博(1985年)などは、さまざまな目的で開かれる『認定博』といい、開催期間も最大3カ月と短く、やや小ぶりな博覧会です」

博覧会協会の川村泰正氏(地域・観光部審議役)はそう説明する。聞けば、登録博は各国政府が招致をして実現させる国家プロジェクトであり、日本では内閣総理大臣が国際博覧会推進本部の本部長を務めるなど、国を挙げて開催に向けて取り組んでいるとのこと。「それだけに、大阪・関西だけの話ではなく、全国規模の取り組みとしてホテルの皆様にも関心を持って参画いただけたら」と言う。

大阪・関西万博の開催期間は2025年4月13日(日)〜10月13日(月)の184日間。大阪市内の臨海部に造られた人工島「夢洲(ゆめしま)」を会場として、2820万人(うちインバウンド350万人)の来場者を見込んでいる。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ、コンセプトには「People’s Living Lab(未来社会の実験場)」を設定。人類共通の課題解決に向け、世界中の人々が技術やアイデアを持ち寄るプラットフォームとして、未来社会を共に創ることを目指す。その目的は、国連が定めるSDGsの理念ともクロスオーバーする。

全国地域を挙げて取り組みたい観光プロモーション

では、1970年の大阪万博とは何が違うのか。川村氏によれば、20世紀までの万博は国威発揚や殖産興業を目的とするものが中心だったという。半世紀前の大阪万博においても、戦後の荒廃期を脱して高度経済成長を果たした日本の国力を示すことに重きが置かれていた。しかし、21世紀に入り、気候変動問題をはじめとする地球的規模の課題が顕在化するなかで、人類社会の持続的発展が主要なテーマへと変わっていく。

「とりわけ今回は、人類が未曾有の危機に直面したコロナ禍を乗り切って初の万博となりますから、『いのち』という原点に立ち返り、万博の場で世界が気持ちを一つにして未来社会のあり方を考えることには大きな意味があります。2030年に迎えるSDGsの目標年まであと5年という節目でもあり、これまでの進捗を確認すると同時に取り組みを加速させる契機とするためにも、重要な万博になるのだと思います」

こうした理念は、参加国が出展するパビリオンのテーマにも反映されている。「アートは命を再生する」を掲げるイタリアでは、技術革新を生み出すデザインと職人文化の結びつきを表現し、ドイツは「循環経済」をコンセプトに、経済活動と自然が共生するための解決策を提示する計画だ。

川村氏も強く推す見どころの一つは「未来社会ショーケース事業」。2025年の先を見越した次世代技術や社会システムを実証するとともに、その一端を万博会場においても実装する。一例として、スマートモビリティを象徴する「空飛ぶクルマ」は会場内を起点に発着し、自動運転・自動給電を可能にする小型EVバスが数分間隔で終日運行する。

「ホテルの皆様にもぜひ関心を持っていただきたいのが、行政機関や自治体、観光団体・事業者などが連携して企画する催しの数々です。例えば、復興庁では東日本大震災をバネに力強く生きる被災地の姿を紹介する展示計画を進めていますが、万博会場でそれに接した来場者を実際に現地へと誘うための仕掛けも検討しています。万博を見て終わりではなく、大阪・関西を起点に全国へと人の動きを広げていく。その先では当然、受け入れが必要となりますから、宿泊事業者の方々にも参画していただきたいです」

川村氏が所属する博覧会協会地域・観光部のミッションはまさにそこにある。国家プロジェクトに相応しく、全国を挙げての観光立国ニッポンのプロモーションに万博の機会を生かせるよう、日本全国の自治体、経済団体、観光団体・事業者との連携・協議を進めている。

開催期間中に2820万人の来場を見込む/提供:2025年日本国際博覧会協会

観光ポータルサイトで各地の体験旅行をアピール

そうした地域観光プロモーション事業の一つが、万博を起点に全国各地への周遊を促すことを目的とする観光ポータルサイト「Expo 2025 Official Experiential Travel Guides」の運営である。川村氏は次のように説明する。

「今回の万博には『いのちを救う』『いのちに⼒を与える』『いのちをつなぐ』という3つのサブテーマが設けられています。これらに沿った切り口から、暮らしや食、伝統・文化、歴史、ポップカルチャーなどの日本の魅力を見直して、付加価値の高い体験コンテンツとして提供するための情報源です。できれば万博を訪れる前にこのサイトを見て、万博のテーマと親和性の高い旅行商品を見つけていただき、あらかじめ予約・決済まで済ませていただけたらと考えています」

そのため、単にこのサイトで観光地での体験や過ごし方を知ったり、それに関連する体験商品を検索したりできるだけでなく、その場で予約から決済までをワンストップで完結できる仕組みにするという。大阪・関西万博の入場チケットはすでに販売が始まっているが、実際に来場する日時は事前予約制であり、来場希望日の6カ月前から先着順で受け付けることになる。ちょうどその頃から活発化するだろう大阪・関西に行くための交通機関や宿泊施設の予約手配のタイミングに合わせ、この観光ポータルサイトを入口に日本全国各地への旅行ニーズも取り込もうという目論見だ。

「特にインバウンドの旅行客には長期滞在が期待できますし、そもそも万博のテーマに関心の高い方々が多いと思われますので、そのニーズに合致する体験コンテンツを来場者が訪日計画を立てる際に提示することで成約確度も上がると思うのです」

すでに昨年10月にティザーサイト(本稼働前の情報発信サイト)が立ち上がり、日本全国のイベント情報や体験ストーリーなど、導線となるいくつかのコンテンツが掲載されている。体験商品の予約が始まる本稼働は今年4月4日から。万博閉幕直後の来年10月31日まで開設し、日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語に対応する。

「本稼働が始まると、平和、脱炭素、和食、伝統芸能などといったジャンルや任意のキーワードからコンテンツの検索が可能になります。例えば、『いのちに力を与える』テーマに惹かれる人が、日本の発酵文化に関心を持ち、それに関連した体験ツアーを探すというように。ホテルの守備範囲とも重なる部分は十分にあると思います」

Expo 2025 Official Experiential Travel Guides
https://www.expo2025travel.jp
出典:2025年日本国際博覧会協会

ホテルにも期待、観光コンテンツの造成・発信

川村氏が全国のホテルに期待するのは、こうした体験型観光コンテンツの造成と提供にひと役買ってもらうことだ。ポータルサイトに掲載する体験商品は登録申請式であり、今年1月より全国の事業者からの登録申請の受付が始まっている。既存のプランでも申請できるが、万博のテーマと親和性があり、体験内容が深堀され、SDGsに関連した工夫がされたような商品が登録の条件となる。

「ホテル単体での申請でも構いませんし、地域の旅行業者や店舗、企業とのコラボレーションで企画いただくのも歓迎です。万博来場日時の予約が動き出す今年の秋頃までに、全国各地の多くのプランを集めることが目下の目標です」

登録申請の詳細は前述のティザーサイトにリンクがあり、地域・観光部へのメール等での問い合わせも常時受け付けている。

「このサイトの一番の強みは、万博への来場が見込まれる2820万人のお客様に対して、ダイレクトに情報をお届けできることです。万博が終わればサイトも閉じることになりますが、ここで紹介したプランが一種のキラーコンテンツとなり、その後の地域の活性化に役立つことを期待しています」

大阪・関西を起点に全国へ観光客を。その活動が実を結び、地域の人々に「万博効果だね」と言ってもらえることが最終的な目標だと、川村氏は話している。

なお、博覧会協会地域・観光部では、ホテルロビーなどに掲出できるポスターや動画といったPRツールも用意しており、問い合わせに応じている(travel-guides[a]expo2025.or.jp メールを送る際に[a] を @ に置き換えて下さい)。

取材・文/編集部