イベントレポート

「Hotel-Women Forum 2024」
ダイバーシティ時代の〜ホテルウーマン ブラッシュアップチャレンジ〜

16回目を迎える「Hotel-Women Forum 2024」が2月13日(火)に開催された。第一部はサウナトータルプロデューサーの笹野美紀恵氏による講演「ウェルネスを意識する理由」、第二部ではSpice up Weddings代表の阿部マリ子氏をモデレーターに迎え、ホテルの第一線で活躍する4名のパネリストによるワークショップが行われた。

第一部:講演
「ウェルネスを意識する理由」笹野美紀恵氏

サウナ施設のトータルプロデューサー、笹野美紀恵さんの実家は、“サウナの聖地”として名高い「サウナしきじ」。歴史ある施設ながら、季節ごとに変わるオリジナルの薬草サウナや、最高に気持ちがよいと評判の天然水かけ流しの水風呂を備え、週末は2時間待ちも珍しくないほど、サウナーたちの支持を集めている。

「ひと昔前、サウナといえば、ひたすら熱さに耐えて汗を流すイメージでした。お客さんも男性ばかりで、女性はほとんどいなかったのです」と笹野さんは振り返る。

今はだいぶ事情が違う。健康効果や美容効果を求めて、あるいは頑張った自分へのご褒美として、身も心も「ととのう」ためのひとときを、サウナで過ごす女性が増えているのだ。本場フィンランドのサウナ文化を特集するテレビ番組や雑誌も多く、美しい湖や白樺の木立の映像と共に、サウナブームを後押ししている。

講師を務める笹野美紀恵さん(サウナトータルプロデューサー、ONEBLOW代表)。

フィンランドだけではない、世界のサウナ事情

とはいえ、サウナはフィンランドの専売特許というわけではない。実は世界各地に独自のサウナ文化があるのだ。

「ドイツの場合、巨大な滞在型のサウナ施設がいくつもあって、いろいろなタイプのサウナ、グルメ、多彩なエンターテインメントで、24時間お客さんを楽しませています。しかも世界中の富裕層や、ウェルネスに関心がある人たちが集まりますから、巨大サウナはお客さん同士の交流の場にもなっているのです」

スペインでは、一人単価3万円くらいのプライベートサウナが人気だという。サグラダ・ファミリアを眺めながら「ととのえる」サウナや、スパとサウナが融合する施設で、人々は優雅な温浴タイムを楽しんでいる。

伝統的な温熱療法の流れを汲んで発達した韓国のサウナは、薬草を巧みに使って、健康効果やリラックス効果を引き出していく。施設内はかなり高温になるので、布などをかぶって短時間で汗をかくスタイルが定番だ。

日本のサウナでは、女性専用コーナーやプライベートルームを設けるといった、きめ細かなサービスが進んでいる。

「女性に喜ばれるおしゃれなサウナが、続々と増えていますよ。女性一人でも安心して利用できるサウナ、友だち同士や家族で楽しむサウナ、水着を着て男女で気軽に入れるサウナもあります。人々がサウナに求めるものが、それだけ多様になってきているのです」

身も心も「ととのう」サウナの魅力と効果

利用者の多様な要望に応え、サウナ体験をよりハッピーなものにするには、どうすればいいのか。新しいサウナのプロデュースを手掛けるたび、笹野さんが考えるのは、いかに確実に「ととのう」を実現するかだ。しかし、そもそも「ととのう」とは、どういう状態を指すのだろう?

サウナに入っていると、熱にさらされた脳は、難しいことを考えるのをやめる。日頃の悩みもひとまず忘れる。これを笹野さんは、「脳が揺らぐ」「脳がバズる」と表現する。

「それが俗にいう、『ととのう』という状態です。サウナ、水風呂、外気浴という一連の流れをきちんと行うと、副交感神経が優勢になります。すると心身は解放され、脳も一時的に空っぽになり、とても爽快な気分になるのです」

「ととのう」だけでなく、サウナには他にも次のような効果があるという。

【サウナの主な効果】

①お肌のターンオーバーが早まる
サウナ、水風呂、外気浴をきちんと行うことで、新陳代謝が促進され、肌のターンオーバーが早まって老化が抑制され、肌のきめも改善される。

②安眠効果
副交感神経が優位となるので、体がリラックスして深く眠れる。

③デトックス効果
サウナのデトックス効果で、食事がおいしく感じられる。汗と共にミネラル分も流出するので、ビタミンCなどの補給を。そして食べ過ぎに注意!

④血糖値が下がる
発汗によってカロリーが消費され、血糖値が下がる。

⑤脳がすっきりする
サウナに携帯は持ち込めないので、デジタルデトックスができ、脳がすっきりリフレッシュ。その分、あとで仕事がはかどる。

⑥体臭が薄くなる
サウナに入ると、サラサラした汗が身体の深部から大量に出る。とくに耳の後ろ、腋、陰部などから盛んに発汗し、加齢臭の原因成分を流し出すため、加齢臭や体臭がとても薄くなる。

⑦うつを軽減する
うつ、不安、ストレスなどが、サウナ浴で緩和されたと感じる人は少なくない。効果を裏付ける論文も複数出ている。

「サウナ=ウェルネス*」が開く可能性

笹野さんの仕事の現場には、病院や、ホテルの統合ウェルネス施設も含まれる。

「そういう施設にこそ、誰もが入りやすい、安全なサウナがあればいいなと思うのです。例えば病院やホテルに低温サウナがあって、介助が必要なお年寄りでも、横になったまま利用できるとしたら、その人のQОL(クオリティ・オブ・ライフ)はすごく向上するのではないでしょうか」

こうした発想から、笹野さんは宮崎県延岡市の病院の屋上にサウナをつくった。患者さんたちが身体を休める「ととのえ椅子」も、介護用ベッドをヒントにして、細かくサイズを計測して特注している。

「人間の身体は、サイズも状態も一人ひとり違います。どういう人がその施設を使うのかを理解したうえで、その人たちが心地よく感じるサイズ、背もたれの角度などを考えなくてはなりません。だからいつも、すべてが特注なのです」

北海道は阿寒湖畔に立つホテル、「あかん遊久の里 鶴雅」の屋上にも、全面断熱複層ガラスのドーム型サウナがある。阿寒摩周国立公園の大自然を一望し、夜には満天の星を仰ぐこの天上のサウナも、やはり笹野さんの作品だ。

ここではおもしろい実験をした。利用者15人に協力してもらい、ストレス値の変化を計測してみたのだ。すると3日後、15人のストレス値は驚くほど下がっていた。

「阿寒湖周辺は空気の酸素濃度が濃く、マイナスイオンも豊富です。そこにサウナの癒やし効果が加わって、この結果が出たのでしょう。ウェルネスとサウナは紐づくのだと、改めて確信した経験です」

ウェルネスツアーの振興や、ホテルの長期滞在用コンテンツを充実させるうえで、サウナは十分魅力的なフックとなりうる。「サウナ=ウェルネス」の発想は、宿泊産業や地方の活性化につながる。

そう語る笹野さんの言葉をホテルへのエールとして、第一部の講演は終了した。

* ウェルネスとは、身体的にも精神的にも健康で、社会や環境などの領域においても、輝くように生き生きしている状態。

第二部:パネルディスカッション
私たちの「ワーク・イン・ライフ」とは?

第二部では、4名のホテルウーマンをパネリストに迎え、「仕事も人生の要素のひとつ」という視点から、ワーク・イン・ライフをテーマに話し合った。進行役の阿部マリ子さんが7つの問いを投げかけ、パネリストがそれぞれの考えを語るという形で進んでいく。

【パネリスト】

帝国ホテル 東京
レストラン部 マーケティング課長
細田晴江さん

The Okura Tokyo
料飲部宴会サービス課アシスタントマネージャー
阿井希美さん

パレスホテル東京
宿泊部コンシェルジュ課アシスタントチーフコンシェルジュ
端谷 舞さん

富士屋ホテル
営業部フロントサービス アシスタントマネージャー
中澤百合子さん

【モデレーター】

Spice up Weddings 代表
実践女子大学短期大学部非常勤講師
阿部マリ子さん

チームワークで人員不足を乗り切る一方、若手の教育に一抹の不安も

Q1 ここ最近を振り返ってみて、うまくいっていることは何ですか?

細田 私のチームでは業務を細分化し、権限もある程度各自に移譲しています。誰もが責任をもって自身の担当業務にあたるため、質の高い、スムーズな業務遂行につながっています。

阿井 人員不足のなか、料飲部では必要に応じて他部署からも人を募り、レストランの朝食時や大規模な宴会でも、人員不足に対応できています。

端谷 日本コンシェルジュ協会を通じた、コンシェルジュのネットワークづくりが順調です。ホテルから次のホテルへ、大切なお客様を託すコンシェルジュ間の連携は、お客様にとっても安心できるサービスにつながっています。

中澤 人材不足を補うためのマルチジョブ対応において、入社10年~15年目くらいの社員たちが、部署を越えたコミュニケーションを、しっかりとってくれていることです。

Q2 反対に、最近うまくいっていないことはありますか?

中澤 人材不足から、忙しい時間帯にはスタッフが一斉に動くため、タイミングが合わず、なかなか後輩や部下の指導に手が回りません。何か指導するときは、その場で声をかけたいのですが。

端谷 後進育成の難しさは私も感じています。それぞれの人に合うように、どう導いていくのか、日々トライアンドエラーです。

阿井 入社3年くらいで、ステップアップのため他のホテルへ転職する若手は応援しています。でも3年ほどの短期間で、果たしてオークラスタイルをどの程度学んでもらえたのか、十分教育できたのだろうかと、いつも思います。

細田 チーム内で業務を細分化し、各担当者が責任を持って業務にあたっているという話をしましたが、担当者間の横の連携や、情報共有には改善の余地がありそうです。

プライベートを犠牲にしない、多様で柔軟な働き方も徐々に広がっている

Q3 仕事とプライベートのバランスが取りやすくなるよう、会社として、何か仕組みを整えていますか?

端谷 パレスホテル東京の「育児休暇」は、男性でも取る人が増えました。コンシェルジュチームでも、できるだけ各自の休みの希望がすべてかなうよう、シフトづくりをしています。

阿井 The Okura Tokyoでは昨年、オペレーション資格手当を導入しました。会社が認定した資格を取ると、給与とは別に手当が支給されるので、プライベートの充実にもつながります。

細田 帝国ホテルは育児をしながら働くための支援が手厚いです。育児休業は保育園に入園できないなどの理由がある場合、子どもが3歳の年度末まで取得可能で、復職後も子どもが中学に入るまでは、15分単位で短時間勤務ができます。2019年以降は、リモートワークと出勤を組み合わせて、より柔軟な働き方ができるようになりました。

中澤 富士屋ホテルにも育児期間中の時短勤務制度があり、「富士屋ホテル保育園」も用意されています。介護休暇が取りやすい雰囲気になってきたところで、子育てと介護のダブルケア対策にも取り組み始めました。

Q4 仕事とプライベートのバランスの取り方で、工夫していることはありますか?

阿井 食事を作りながら洗濯機を回す、洗濯をしながらお風呂を洗うなど、家では「ながら」で複数のことをやっています。あとは子どもが帰ってきたら、いつでも「お帰り」と言えるように心がけています。

端谷 オンではタイムパフォーマンスを意識して行動し、オフではあまり予定を決めずに過ごします。また新しい観光施設や娯楽施設、レストランなどに、視察や情報収集を兼ねて足を運ぶなど、オフでも仕事に関連することを楽しんでいます。

中澤 日曜日には何があっても休みを取り、子どもたちと過ごします。また、誰かに頼れる部分は、夫や自分の両親に任せるようにしています。子どもたちは、「土曜日はお客様が多いから忙しいんだね」と、理解して応援してくれています。

細田 平日はルーティーンで家事をこなすのが精いっぱいですが、予定より少しでも早く片付くと、子どもたちと本を読んだり、音楽を聞いたりします。忙しいほど達成感があり、子どもとの時間も濃密になるように思います。

仕事もプライベートも、私を輝かせる人生の一部

Q5 ウェルネスのために、積極的に取り組んでいることはありますか?

細田 通勤の際、一つ手前の駅で電車を降りて歩くなど、身体を動かすことを意識しています。子どもがいるので、手抜きも許容しつつ、なるべく多くの食材を食卓に並べたいと思っています。

阿井 会社には素晴らしい従業員食堂がありますので、必ず食事はそこを利用しています。充実した副菜も、ご飯も、お味噌汁もあって、しっかり栄養がとれます。

端谷 最近パーソナルトレーナーについて、強制的に運動を始めました。月に一度はスパやネイルサロンで、自分をメンテナンスしています。

中澤 心のゆとりが生まれるように、家の整理整頓を心がけています。座りながら粘着クリーナーをかける、子どもを送り出すついでに玄関を掃くなど、「ながら」掃除が得意です。あとは休みの日もメイクをし、常に他人から見られている意識をもつようにしています。

Q6 ウェルネスとは、「輝くように生き生きしている状態」だといわれます。あなたにとって、どんなときがその状態ですか?

端谷 仕事をやり遂げて、プライベートを楽しんでいるとき。達成感の後の、オフのひとときです。

阿井 お客様から感謝の言葉をいただくとき。上司や先輩に仕事を評価していただいたとき。それを家族に話して、「よかったね」と喜んでもらったときなどです。

中澤 普段通りに生活し、仕事もできること。そういう環境があることが、とてもありがたいです。

細田 仕事で達成感を感じるとき。部下が自力で一つの仕事をやり遂げたときなども、活力をもらいます。プライベートでは、子どもの成長を感じるときです。

Q7 さまざまな経験を経たうえで、あなたがホテルで働き続ける理由を教えてください。

阿井 サービスの受け止め方は、お客様によってさまざまです。そのお客様が求めるものを瞬時に見極め、最高のサービスを提供する喜びが、私が働き続ける理由です。

端谷 コンシェルジュという仕事が好きだから。次々とご縁がつながっていく楽しさや、お客様にそれを還元する喜びを、感じられる仕事だからです。

中澤 お客様やスタッフとの出会いに、日々、刺激を受け、お客様の人生の節目に立ち会い、自分自身の経験も豊かになっていく。だから働き続けています。

細田 私たちが提供するサービスや商品によって、ホテルでの体験がお客様の記憶や思い出に残り、次の機会につながっていく。そのサイクルに自分が貢献できることがうれしいのです。また部署を異動することで、全く新しい業務にチャレンジできるのも魅力です。

パネルディスカッションの後、フォーラム全体を通しての気づきや、各自のワーク・イン・ライフについて全員で振り返り、終了となった。

取材・文/田中洋子 撮影/島崎信一